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序
白い勾配を上った先が駅であった。
気動車の扉が開いた。一人の青年が駅に降りた。気動車はすぐに暖気を閉じ込めて、湯気を上げながら峠を下って行った。
一両編成のエンジンの木霊が、雪の木立の中に遠く消えてゆく。
空も山も白い冬だった。
濃い飴色に朽ちかかった駅舎に、1日数便しかない時刻表がくすんでいた。
『行くか』
青年は口の中で呟いた。
青年のコートとマフラーだけが、この世界で黒だった。
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