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玄関に、肩身狭そうに座っているカレンダーを見やる。
今日は八月二十九日。
夏休みももう終わる。そしてそれは、君との時間の終わりとイコールだ。
君に、会いに行かないと。あの海に行けば、君に会える。
散らばっているスニーカーを無理やり足に入れ、ドアノブを回す。
勢いよく足を踏み出すと、8時ちょっとの夏の匂いにくすぐられる。
潮風の誘うままに坂道を駆け下りると、打ち寄せる波がギラギラと光を放っていた。早朝にも関わらず照りつける太陽と、暑いの一言では形容しきれないような体温。
夏は嫌いだったけど、それを全て±0にするくらいのきみに出会ったから、夏が嫌いじゃなくなった。いやそれどころじゃない、大好きになったんだ。
それなのに。
夏が終わったら、君にもう会えない。
その事実が、どうしようもなく僕の心を焦らせていた。
でも大丈夫、今の僕を取り囲むこの世界は、こんなにも夏に溢れている。
夏が暮れる気配なんてまだないんだ、きっと。
少しだけ地球温暖化に感謝、なんてね。こんなことを思うのはよくないかな。
海に着くと、君の姿が目に飛び込んでくる。
スローモーションで、肩につくくらいの君の髪が揺れていた。
君は今日も、真っ白な紙に向かって筆を動かしている。
その横顔はいつにも増して楽しそうで。心が一瞬、軋んだ音を立てた。
「おはようっ。」
「おはよー、今日の海は一段と綺麗だね。」
「だよねっ。」
目の奥の光をきらめかせながら笑う。
白くて薄くて、ひらひらしたような服を纏った君が眩しかった。
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