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太陽が真上で照りはじめ、君は手を止めて小さく笑った。
こっちを見て、目をゆっくりと細める。
海に広がるビーズたちを眺めながら、僕たちは2人でおにぎりを頬張った。
おばあちゃんが作ってくれたおにぎりは塩味で、海を望みながら口にするには少し濃かった。
他愛のない会話を交わしたのち、また筆を取る君。
真剣な眼差しは誰よりも美しかった。
「いつも海、描いてるよね。その絵、描き終わったらどうしているの?」
「えっ…特にないけど…たまにお父さんに見せたり、自分で飾ったり、とか。」
少しの間を開けて、再び君は顔をあげた。
どことなくぎこちないその姿もまた、綺麗だと思ってしまう、息をするように。
「私にとって描くことはね、記憶にすることなの。写真じゃなくて、自分がその時見た景色と心を残しておくために、私は絵を描くの。」
とても素敵、と思った。
それなのに何故か僕は、それを口にすることができなかった。
何かにせき止められたように、のどに痞えて言葉が、想いが出てこない。
前はこんなこと、滅多になかったのに。
君にはどんなことも、なんだって安心して話せたのに。
ほんの少しの笑みを浮かべるのが、精一杯だった。
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