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太陽が傾いて今日が終わろうとしているというのに、相変わらず君は楽しそうに絵具と格闘していた。
君の持つパレットに広がる色は、それだけで世界の全てを描き出せるようだった。そんな煌めきを放っていた。
君の横顔を見ていると、何故だか無性に寂しさに襲われる。
僕は咄嗟に沈みゆく太陽と、光に染まる海を見た。
黄昏れるような振りをして、夏に焦る心を隠していた。
それなのに、時は進んでいく。
秒針は、軽やかに回り続ける。早送りになんて、していないのに。
「できた!」
君が優しい声色で、嬉しそうに叫んだ。
はにかむその姿に、僕はシャッターを切りたい衝動に駆られた。
でも、あいにく僕はカメラを持っていない。
君のように、素晴らしい絵も描けない。
せめて、目の奥に焼き付けておこうとしてみる。
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