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それを目にした瞬間、目の奥が疼いた。 あまりの衝撃に痺れて、心を縛られたようだった。 夕暮れなのに、朝焼けのよう。 橙と青の、共存する世界。 それなのに太陽は真上で輝いていて、真夏の炎天下のようでもあって。 照りつけるそれは、見方によっては月にさえ見えた。 橙が染める世界に、反射する陽の光。 被さるように薄く広がる、半透明の雲たちが流れる。 その真ん中にどこまでも澄み渡り広がる、君のように青い海。 波が打ち寄せ、浜辺に弾けて散っていく。 波の欠片一つ一つが、世界の輝きを受け取っていた。 きっとこの世界中の嬉し涙をあつめたら、こんな海ができるのだろう。 涙が零れそうなほど、優しく繊細な色使いだ。 絵の具一つで、こんなにも鮮やかな世界を描き出せるものなのだろうか。 綺麗、と言いたかった。 凄いね、と言いたかった。 でもそんな言葉じゃ言い表せない何かが僕の心の内にあって。 それを口にすることなんて、到底できるはずもなくて。 言葉にしてしまったら、何かが壊れてしまうのではないか、という得体の知れない恐怖、捨てられない感覚が僕の周りで口を塞いでいた。 「あのね、私、この夏の全てをこの絵に込めたの。」 君は、それだけ言って微かに笑った。
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