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「ねぇ、君はさ。どこに行くのか、自由に選べたんでしょ?」
昼下がり落とす影を見つめて、僕は言った。
「えっ、うん。そうだけど。」
「じゃあなんで、ここに来ようと思ったの?こんな、海だけが取り柄の町に。」
「えっとね。イニミニマ二モ、って。」
君はゆっくり笑った。そして海を見る。
君の目の奥に広がる海は、きっとどの海よりも、青くて澄んでいる。
「いにみに、まにも?」
「どれにしようかな、って意味だよ。神様の言う通り、って。きっと神様がね、与えてくれたの。」
この世界の真実を、隠された涙を、ひとつひとつなぞるように君が笑うから。
僕は勝手に、君のすることには意味があって、全てに理由があるんだと思ってた。
だから君がそんなことを言うなんて、ちょっと拍子抜けしてしまったんだ。
でも、君が言うように、君がそうやってこの町に来たのだとしたら、僕は最高の運の持ち主。それだけは確かなはずだ。
八月の初め、この海で君に出会った時のことをふと考えていた。
もう僕の目の中に広がる海は、もうあんなに広くないし、青くもない。
君は、この町に来た理由を気まぐれのように僕に伝えた。
いにみにまにも、と。
何かの呪文のようだった。そしてそれは、とっても楽しそうで。
僕はその言葉をそっと、心の奥の、一番大事な箱に仕舞った。
永遠じゃない君との思い出を、決して忘れることのないように。
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