合宿の朝、水汲み場で。

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 未空さんは僕に気づき、ゆっくりと距離を縮めてくる。あぁ、覚えてくれていたんだ、と僕は思う。 「未空さん、久しぶりだね。」そう僕が告げると、未空さんも、未空さんの言葉で返事を返してくれた。 ニャー。  僕はポケットの中のチャオちゅーる(かつお味)を取り出して、未空さんの口元へと近づけた。それを美味しそうに食べる未空さんの柔らかな頭を撫でながら、未空さんが元気に生きてくれていたことに感謝した。  未空さん、高校一年生の時、部室で泣いていた僕を慰めてくれたことを覚えているかな。失恋に涙する僕の膝の上に乗ってきて、僕の顔を見ながらニャーと慰めてくれたことを。  僕はその未空さんの優しさに大泣きして、スッキリして、人生を立ち直れたんだ。君は人生の恩人、いや、恩猫か。  しばらく未空さんと時間を過ごした僕はその湖畔を後にした。また来るよ、と未空さんに告げて。  空にはうっすらと星が見え始めている。涼しさの気持ちよい夏の夜、僕は幸せに満たされながら家族の住む家へと歩を進めた。 おわり
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