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37.
それから半年後。
私の日常は、胸がときめくような出会いも、恐ろしい事件もなにもなかったかのように続いている。
サエコとは一度も連絡を取っていないし、これから先もやり取りすることはないだろう。
あの男については、どうやら親が捜索願を出したらしいことを風の噂で知った。
私はあれから一度だけ、いつもの電車を乗り継いで晩香町の入り口の様子を見に行ったが、やはり、そこにはなにもなかった。
晩香町は、私にとって忌まわしい場所であり、また慕わしい故郷でもある。
廃屋の扉の奥に、大樹の陰に、あるいは小道を曲がった先に。晩香町の入り口があるような気がする。
アキラが捜し出してくれる日を、私は待ち続ける。そうして、夜には夢を見るのだ。どこまでも続く干潟と、果てしない海の夢を。
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