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 男と別れた。  親友のサエコに紹介されて、その男の熱烈な告白を受け入れたのが一か月半前。  尽くすタイプの男で、始めのころこそ交際は順調だったが、一か月で豹変した。きっかけは、デートの約束を私が当日になってキャンセルしたこと。急に生理が来て、体調が悪くなったのだ。  男は、私がどうしてデートを取りやめたのかメールで詰問した。体調不良だと言っても、自分がどれだけ精神的苦痛を受けたのかを声高に主張する。  いい加減嫌になってメールを無視すると、無視したメールとそっくりそのまま同じ文章を、繰り返し送りつけてくるのだ。  男は毎日新しい文面のメールも寄越すので、無視したメールと新しいメールを合わせて、私の携帯にはあっという間に一日十数件のメールが溢れた。  メールするのをやめてほしいという私の懇願は、そいつを調子づかせるだけだった。  木曜の仕事終わりに、私は男を呼び出した。東京、町田市の駅前は混雑していて、仕事や学校終わりの夕方となればなおさらである。  私は男に、あなたのことが怖い、別れよう、と告げた。  男はそこそこ端正な顔を硬直させて、まるで拗ねたように唇を突き出す。  私はなにも言おうとしない男に、最低限の礼節は尽くそうと「もう連絡はしないけれど、お元気で。今までありがとうございました」と頭を下げた。  そのまま体を翻すと、私は人ごみに紛れて、小田急線の改札へ向かった。
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