ピコ星と斗織姫と夏の大三角形

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白羽(しろは)は1枚のポスターに釘付けになっていた。 夏のロックフェス 参加者募集 自宅の楽器店の掲示板にポスターを貼り付けながら その内容に釘付けになっていた。 白羽の住む街には いきなり広がる高原がある。 駅からさほど遠くなく突然現れる高原には 大きな野外ステージが設置されている。 何十年経ったのだろう。 音楽を愛するものなら 演奏するものも 聞くものも また、それらを演出するものも ひいては広告するものに至るまで この野外ステージに憧れるものは後を経たない。 この野外ステージの魅力は 愛するものに支えられながら 何十年もの間世代を超えて大事にされ続け その音楽を制する威力は衰えることを知らなかった。 白羽もまたこのステージに憧れている一人だった。 白羽がポスターの前で思いを巡らせていると 背後から同級生の声がした。 「ちーす。」 黒いギターケースを背負っている二人組だ。 「スタジオ、お借りしたいんっスけどー。」 二人は白羽に気付かない。 誰もいないと思っているらしい。 「ピコ、今何時?」 「5時」 「師匠いないのかな・・」 ピコと呼ばれた男子が店内を物色しながら うろうろ歩き出した。 「お!」 ふと、立ち止まり 「斗織(とおり)!こっちこっち!」 手招きすると 「ん?」 斗織(とおり)と呼ばれた男子が ポケットに手を入れたまま、ゆるゆる歩いてくる。 白羽(しろは)はポスターを見るふりをしながら 息を殺して頭上のコーナーミラーに映る 二人の様子を目で追っていた。 と、斗織と呼ばれていた男子が不意に視界を上げた。 瞬間、バチっと鏡越しに白羽と目が合った。 斗織は視線を外さないまま ピコの肩に腕を回すと 耳元でヒソヒソ何か囁いている。 斗織に射抜かれたように 視線を外せない白羽に もう一つ視線が飛んできた。 ピコだ。 口元を緩めて口角を上げ 白羽の視線をキャッチする。 ニヤついたピコの目が意図せず色っぽくて 白羽は急激に全身が熱くなり ぐっと視線を外し深く(うつむ)いた。 「ピコ星と斗織姫・・」 白羽はぽつっと誰にも聞こえない声をこぼした。 「よ! 師匠は?」 ニヤニヤしながら寄ってきた二人が聞いてきた。 この二人は 学園で七夕のニコ星と呼ばれている ベーシストとギタリスの二人組だ。 「あ・・お父さん・・・スタジオじゃないかな」 白羽のお父さんは 速弾きにどっぷりハマったニコ星の師匠兼 プロのギタリスト兼この楽器店の店主である。 この楽器店の地下にあるスタジオは 二人の練習の場でもあった。 とその時、店内奥の扉が開いた。 「おー、ニコ星か」 白羽のお父さんは時計に目をやると 「もう、5時か。  待たせたな。使っていいよ。」 そう言って、右手でこいこいと合図した。 二人は師匠にはキチンと頭を下げてお礼を言うと 地下のスタジオに消えていった。 早々に、ピコのベースの音が聞こえる。 腕鳴らしからエンジン全開である。 「あのベースのテクニックについてこれるやつが  いないんだろうな・・・」 父親はそういうと 意味ありげに片眉を上げて すれ違いざまに白羽の肩をくっと掴んだ。  
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