其の参拾弐

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 しかし飛龍は青蝶の肩を抱きしめ、「そうではない」と言った。 「青蝶は騙されていたんだ。あの男に」 「僕が、騙されていた?」 「そうだ。そもそも暁明は、青蝶に売春をさせるためにあの殿舎に住まわせたのだ」 「暁明がそんなことを、するハズありません!!」 「青蝶なら上手いこと洗脳できる。そう針房の長から紹介されていた」 「っ!?」  暁明を『良い人』だと思い込ませ、青蝶を思いのまま操れるように洗脳していったのだと、飛龍は言う。 「暁明は青蝶に、薬を買うためにコッソリ仕事を斡旋する。とでも言ったのだろう? そもそもの目的は其方に売春をさせ、自分が日銭を稼ぐ。そう言う企みだった」 「そんな……暁明は、僕の仕事も応援してくれていたし……体調だって、気遣ってくれて……」 「優しかったのだろう?」 「はい」 「そうやって“優しい男”を演じて信じ込ませたのだ。そうして針房の長と共謀して、青蝶に売春をさせていた」 「長も、一緒に……?」 「そうだ。客引きは針房の長が受け持っていたようだ。そして客から受け取った金を折半していた」 「そんな……まさか……」  飛龍の言うことを受け入れられない。あんなに優しかった暁明が、自分を利用して金を稼いでいたなんて……。  医務室の中から、顧客一覧まで出てきたと言った。その人たちも勿論それぞれ処分が下された。  しかし、話はこれだけで終わらなかった。
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