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ルビィは苦笑い。ボソボソした早口で、何を言っているのかわからなかったからだ。トモは、ルビィの態度で自分のオタク心が露出したことを察し、顔を赤らめた。
「あ……簡単に言えば、タブレットの進化版なんだよ、これ。どの身分証明書も、二十メートル以上離れても自動に通報されるし。再発行も面倒だから。それで、ここ。『語学Sランク』って書いてあるだろ?」
「本当だー」
ルビィはトモに肩を寄せる。強すぎないバラの香りが、ふわりとトモを通り過ぎた。
「Aランク、Sランクになると身分証明書をバージョンアップしろって通知が来て、データ保存量と持ち物の登録個数が増えるんだけど、その横にデータを保存するところがあって」
「へえーおもしろーい」
トモは画面をスライドしていく。左に写真、右に箇条書きされた説明文に、ルビィは食い入るように見入っていた。
説明文は、ルビィでも読むことができる元の世界の言葉。ギルドにいた時に、『誰も読めず汚い字』とバカにされても黙々と続けた、トモがトモとして生き続けるためのプライドの塊。
「ねえ。なんでこっちの言葉で書かなかったの?そのほうが価値があったんじゃない?」
トモは、哀愁を漂わせながら微笑み返す。
「ルビィも、いつかわかる時が来るんじゃないかな?利益や価値なんて度外視しても、自分を保ちたくなる時が」
ルビィは俯いて小さく呟いた。
「そんなの、生きていくために全て捨てたし」
「ん?ルビィ?」
ルビィは、顔を上げてニッコリと笑う。
「そうだねっ。私、がんばらないと」
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