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☆ルビィの役割☆
「ぢゅおぶじどぎょぽびびぶぅぽ」
「へ?」
ルビィとトモの頭上が暗くなり、ルビィが振り返る。
「うわわっ」
そこには、ルビイを横に三倍並べたような大男がそこにいた。傷だらけの腕に、くすんだビッグTシャツ、背負われた大きな剣。モサモサの赤茶髪に長い髭。色を白にすればサンタクロースに似た容姿に、威圧感たっぷりのゴツイ体が二人を見下ろしていた。
「だぴぃぐど。どどぽぶちゅがぼづがげ?ぐぐがばぶぴぃ」
ルビィにはゴツイ男が赤ちゃん言葉を言っているように聞こえ、そのギャップがツボに入る。ルビィの胸中は、笑いをこらえるのに必死だった。
(さすがに笑っちゃいけないことぐらい、わかるってーの)
ルビィは笑わないよう肩を震わせながら、トモの耳元にささやく。
「あっ、あの、ねえ、トモ。変な人が後ろにいるんだけど?」
「はあ?んなわけあるか……ヒイッ、マ、マスターっ。お伺いするとお伝えしたはずですがあ」
トモの反応はルビィと逆だ。猫の逆毛のようにビビビと信号が走り、悲鳴を上げて飛び跳ねた。
「トモ?」
「あっ、うん」
トモは震えながら、前を向いたままの姿勢でルビィに伝えた。
「ええっと、後ろのかたが、ギルドマスターのグルスさん、なんだけどお」
「どぎざぞぶぶげじょっ、トモ?ごぞぼでご」
「はい、もちろんですっ」
もう一度飛び跳ねたトモは、カバンから栄養補助食品に似た長方形のスティックの包装を上だけ剥がしてルビィに手渡した。包装は、ラップで真空パックしたような見た目。
「食べて」
「え?なに、これー」
「あー」
言い辛そうに、トモはポリポリと頬を掻く。
「ここだけの話なんだけど、これ、俺と友達で錬成した翻訳クッキー。本来、パワーアップものの食品を作る行為は重罪だからね?たまたま、たまたまだよ?俺には効いたから、あちらの世界から来た人間には効くと思う」
「ふーん」
ルビィはもう一度、包装を念入りに見つめた後、躊躇なくパクッと食いついた。
「おお、うまっ」
「だろー?」
「チョコ味?」
「そう思う?いやー、これ。大変だったんだよー。カカオに似た植物があって、記憶を頼りに粉砕してさー。まさか、舌触りが重要だったとはね」
「んー。パッケージはもうちょっとこだわれないの?味は美味しいのに。闇市に出すとしても売れないわ」
「いやいや、これはシュミで作っただけで。ラップを薄く生成するのって、この世界だと難しいんだって。この世界には、保存食の概念が浅いし」
誇らしげに話すトモと、興味津々のルビィの雰囲気に、グルスはゴホンと咳をした。
「トモ。えらく口が達者ではないか。同郷のものと話が弾む楽しさは、わからないでもないが。では、我は、いつ話をずべきなのだ」
「はいっ、今、今ですっ。すみませんでしたっ」
トモは立ち上がって、背中にお盆を乗せても揺れないような、美しい九十度の礼をした。
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