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ルビィもトモの態度に感化されて立ち上がり、グルスを品定め。
(トモの言ってた通り、肉体強化に全振りしているっぽい。商売に興味なさそう。トモの態度を見るに、厳しく育てるタイプ?家庭的な女性を演じたほうが、長生きできるかも)
グルスはルビィの失礼な態度に反応せず、その場を一切動かない。
(んー、体幹がしっかりしてる。よっぽどのことがないと動じない、か?この人は、私たちにメリットか、デメリットになるか。うーん、使い方次第かあ?)
「女、女」
「ええっ、はい?」
ルビィは顔を上げると、グルスとしっかり目が合った。怒りでも愛情でもない。冷たくも、脳を働かせながらルビィを品定めしている目が、まばたきせずにそこにあった。
ルビイも視線を外さなかった。なぜなら、こう思っていたからだ。
(この人のほうが一枚上手だ。ここで気を抜くと、いいように扱われて終わる。私は、楽して長生きしてやるんだ。絶対に負けるもんかっ)
「もういいな?」
口火を切ったのは、グルスだ。
「えっ、あっつ、はい。よろしくお願いします」
ルビィは我に返って、トモの横で頭を下げた。グルスはグッガッハハと頭上で笑う。
「あれだけ殺気を見せて礼儀正しいとは、面白い女だな。安心せよ。我は、女を戦地や贄に使うことはない。囮には使うかもしれないが、うまく生き抜けばよいだけだ。女は華奢だから、部屋は用心棒のトモと同室、妻の寝室の隣にしよう。ついでに、その聡明さを我がギルドで役立てよ」
「あ……」
ルビィはガクガクと震え始めた。ここで初めて、今の状況に恐怖したからだ。
(なんという分析力。無理だ、この人には勝てそうにもない)
「ルビィ?」
「ヤバいよ、トモ。この人のスクリーニングスピード」
「スクリーニングって、ふるい分けってことだよね」
「うん。株の銘柄選定でやるんだけど、調べた内容が細かければ細かいほどいい。つまり、その業種で働いてたとか、長年株をやっている人のほうが、知識があるから有利って話。あの人、経験豊富だ。私、一瞬で選定された」
ブツブツ言い合う二人を、グルスは担ぎ上げてガハハと笑った。
「女も、異国から来て不安だったか?もう、言葉はわかるだろう?ワシはグルス。女、名は?」
汗臭く、ケモノのニオイに抱かれたルビィ。後戻りできないことを察したルビィは、か細い声で名前を言った。
「ルビィ~」
裏返ったルビィの声に、グルスはまた、豪快に笑う。
「では、試練だルビィ。我の次のダンジョンに使う贄の希望者が現れたことになってるから、どうにかして説得してくれ。移動中にしっかりと計画を練るがよい」
グルスは、ルビィに向けた優しい視線とは真逆の、矢のような鋭い視線でトモを見た。
「軽いぞ、トモ。自主練不足か?」
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