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「はあー。無理って言ってんじゃん。怖いし、モンスターかわいそうだし。服も一枚しかないんだから、汚れちゃうじゃん」
「はあー、どうしたらいいんだよ」
受付の男は頭を抱える。
「それで、薬草収集や商売も嫌、錬金術も難しいって言うんでしょ?」
「うん。手荒れしたくないし。危険じゃん?」
「だーかーら、それを学ぶためにですね?見習い登録ってのがありましてね」
ルビィは首をブンブンと横に振る。最大限に盛ったまつ毛をバサバサしながら、目に涙を溜めて訴えた。
「ありえないって。言葉通じないんだよ?マウント取られて精神的に辛くなるだけじゃん」
「もーう。いい年なんだから、頑張りましょうよー」
ルビイ二十歳。学生時代に株で財を成し、高級化粧品とエステをこれでもかと堪能してきた、仕事経験なし、肌ピチピチ、プルプル、見た目高校生の自称美女。深く関わらなければ、誰もが一度は惚れそうな、可愛い系のあざとい女。
対して受付の男、今年二十二歳。十代で挫折を味わい、努力で地位を築いてきた、真面目な男。
根負けして、顔を両手で覆ったお手上げ状態の受付の男に、ルビィは大きなため息をついた。
「はあー。ちゃんと考えてもらわないと困るんですけど。黄金比で顔面偏差値の高い、見目麗しい私の人生なんだから」
『ほら、みて?』と言うように、ルビィは典型的なアイドルポーズを決めていく。受付の男はガックリと肩を落として、うなだれた。
「んなこた知りませんよっ。勝手にしてくださ……ああっ!」
「ん、思い出した?」
受付の男は胸の前で手を叩き、ルビィは目を輝かせて前のめり。受付の男が胸の谷間を数秒凝視したのは、しかたのないこと。
「はっ。あるわあるわ。何もしなくていい仕事が」
少し顔を赤らめた受付の男は、奥の棚のさらに奥で埋もれていた緑のファイルを持って来て、ページをめくる。
「あー、これだこれ。ご希望通りですよ。これなら、最高ランクのSランクの男たちに守ってもらえるし、うまくいけば高額もらえるし」
解決の糸口が見つかったことで、自然と二人の距離は縮まり、いつの間にか友人並みの関係に。
「マジ?じゃあそれで」
受付の男は契約書を取り出し、ルビィに提示する。
「あと、ルビィさんには必要ないとは思いますが、説明義務なんで聞いといてください。こちらも言った言わないで揉めたくないんでね」
「はーい」
受付の男は面倒そうに、プリントの文章をペン先で追いながら読み上げていく。
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