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「あー、『Sランク特殊任務。国家秘密。ランクは問いません。こちらは命の保証はありませんが、帰還できれば将来は安泰です』いいですね?」
「え?守ってくれるんでしょ?」
「まあ、そう、ですけど」
(守るって言っても、自己防衛がゼロなら意味ないんだけど)
その程度の含んだ言い回しで、ルビィに伝わるわけがない。
「じゃあ、大丈夫でーす」
受付の男も疲労困憊。一抹の不安が残るが、先に進めることにした。
「じゃあ、次。『あなたの家族の人生は、国が保証します』。これは、ルビィさんには関係ないでしょう」
「はーい」
「じゃあ、こちらにサインと印鑑、は、ないから拇印ですね。拇印はこちらにお願いします。ルビィという字はこの国の言語だと……」
受付の男は、メモ用紙に記入する。
「はい、このまま書いてください。この『一』の長さに気をつけて」
「はーい」
ルビィは素直に記入する。受付の男は、とりあえず終わりが見えて安堵した。
『特殊任務、国家機密』とは、体のいい言葉。
受付と国の関係者、合言葉を伝える住民と依頼者だけが触れることのできる真実。
この二つの文字が書かれた依頼の場合、レベルの高いモンスターの生贄になること意味し、生きたとしても五体満足では戻ることはできない。よって、相手が合言葉を伝えない限り、受付は紹介しない決まりである。
都市伝説並みにウワサは広がっているが、あくまでも、ウワサ。
『どのみち、楽観的なルビィさんは生きられないだろう』と、修羅場をくぐってきた受付の男は判断した。
「これでいい?」
「あ、はいはい、完璧です。では、これから身分証明書の手続きの書類にサインを」
「げー。めんどー」
そう悪態をつきながらも、ルビイは言われた通りにサインをする。
「はい、以上です。僕の師匠が来るまで、待合室でお待ち下さい。」
「師匠?」
「はい。僕を拾って助けてくれた彼は、そこのギルドマスターですから」
受付の男は、スパルタでも楽しかった日々を思い出し、口元を緩めた。
「あのさ」
「はい?」
「その人、女慣れしてる?」
真剣な顔つきのルビィに三秒の沈黙の後、受付の男は大笑い。
「アハハッ、ふうー。冗談はよしてください。無理ですって。あちらのギルドは体を鍛えるのに時間を割く人ばかりですからね?誘惑して既成事実作ろうとする人を何人も見てきましたが、皆様、自分大好きなので相手にされませんよ?あっ、すいません。プッ、ププッ、アーハッハッハ」
「あーい。ありがとねー」
淡々と去っていくルビィを見送った後、その場の全員に同情の眼差しを向けられた受付の男。彼は、大粒の涙を流しながら、気が狂ったように笑っていたからだ。
「あ」
涙を拭った受付の男は、上司に肩を叩かれると、バッテリー切れのように気絶した。『屈強な男たち』出身の上司は、受付の男を事務室までお姫様抱っこ。隣の席の仲間が、男の窓口を静かに閉めた。
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