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(あーあ。やっちゃった)
雰囲気で颯爽と立ち去ってみたものの、ルビィは言葉がわからない。
(外から見た建物は狭かったし、人の流れについて行けばいいと思ったんだけど、閑散としすぎて、もう)
散歩程度の軽い気持ちで歩いているルビィは気付いていないが、ここは魔法、精霊、獣人、人魚などが存在している未知の世界。普段通りの感覚で動き回ればどうなるかなんて、誰もが予想ができるというもの。
幸い、この建物内は治外法権、平和主義。少しでも争ったり差別すれば、身分証明書は無効化され、二度と発行されることはない。そんな大罪人を匿えば、世界を敵に回す。安息の地などなく、怯えて暮らす生活を好む変わり者はいない。無効化された者の行きつく先は、モンスターの餌。
ルビィが今いる場所は、全世界が繋がる円柱の吹き抜けの中心だ。
そこから十二本に枝分かれした廊下。決められた曜日と時間でそれぞれの国に繋がり、道を間違えば敵地に迷うってことも。
「さあて、どうするかなあ」
中心にあるドーナツ型につくられたベンチに腰掛け、ルビィは大きく伸びをした。
来て早々、言葉が通じる人を見つけ居場所を確保したルビィは、お気に入りの曲を口ずさみながら、分かれ道をボーッと眺めて、眠ってしまった。
ルビィは決して、運だけで大金を得たわけではない。株の世界で必要なスキルは、運よりも勘だ。『いける』と思えば買い、『違う』と思えば売る。
時には損を出しつつも、より多くの利益を得ることでプラスにしていく度胸も必要だ。株で勝ち続けてきたルビィは、今までの経験から、これ以上進まないほうがいいと判断した。
ルビィの判断は、間違いではなかった。
「はあー。いたいた。何してるんですか」
「えー?見てわからない?何もしてないよ」
警戒心なくニッコリ笑うルビィに、男はあきれてため息をついた。
「はい、身分証明書。よかったですね。ここってベンチはあるけど、全世界を繋げたせいで時空が歪んでて、この世界で生まれた住民は近づけないから。あ、ちなみに、あれから丸一日経過してますよ」
「へえー」
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