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「結婚指輪も今日見にいくか」
立ち止まったアクセサリーショップで涼が言った。
「これがあるからいらない」
指輪のはまった左手を見せる。
「またそんなこと言って。それは婚約指輪だろ」
「結婚指輪があったらこっちの出番がなくなっちゃう。涼だって指輪つけられないでしょ?」
医者でしかも外科医なんだから、衛生的に指輪はつけられないはず。
「休みの日につけるよ」
「じゃあ、二千円くらいので。ほら、ここにあるよ」
店頭に並ぶシルバーリングを指差した。
「二千円て……高校生のペアリングでももっと高いだろ」
涼が呆れたように見る。
「てっきり女避けにつけさせたがると思った」
「逆に指輪が引き寄せちゃうなんてことも――」
言いかけて、人混みの中に見覚えのある顔を見つけた。
「変なこと知ってるね、お前」
この間、彼氏とできなくて悩んでたクラスメイトだ。その彼氏らしい人と手を繋いで仲睦まじく歩いている。目が合い、お互いにはにかんだ笑顔で目礼を交わした。
「友だち?」
その様子を見ていた涼が言った。
「うん。この前話した同じクラスの、ええと……」
説明に困って言い淀んでいると、すぐに思い出してくれた。
「ああ、入口を間違えられてる子ね」
すっかり決めつけている。二人はあれからどうなったんだろう。とりあえず仲良さそうで安心した。
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