この恋が叶わないことは分かっていた。

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「良介が、小原さんと?」 向かいの席に座る香織が、目をまん丸くさせる。彼女がつまんだばかりのちびっこいポテトフライが、その手からするりと落ちていった。 「うん。そう、だね」 「うそお、まじか。そんなことあるのか」 逃げのびたかと思われたポテトフライは、また香織の指に捕らわれ、呆気なく口の中に放り込まれた。「まじかあ」と、彼女はむしゃむしゃ口を動かしながら言う。 ここは全国チェーンのファミレスだ。私と香織は、放課後に二人で、訳もなくしゃべりたい時に使っている。ドリンクバーとポテトフライを注文すれば、何時間いすわっても文句を言われないので、時間をつぶすには最適なのだ。そして、高校から自転車で十五分と程よい距離で、同じ学校の生徒と出くわすことも少なく、昨日遭遇したとんでもない話をするのにもうってつけというわけだ。 「でもさあ、見間違いとかじゃないの。夜中だったなら、十分にありえるんじゃない」 彼女がアイスコーヒーに刺さったストローを抜き、氷をつんつんと突っついている。 「いや、見間違いではないと思う。私、視力2.0だし」 「だって、小原さんでしょ。良介と接点なんてないんじゃない。二人が付き合うとか考えられない」 「私もそう思うけど、実際にそんなところを見たんだし」 「じゃあ、美香はさ、どうするの」 「どうする?」 香織がきりっとした表情でこちらを見る。 「あんたの恋、どうするのよ」 クイズ番組の司会者みたいな威圧感で、彼女が迫ってくる。私は大きく息を吐き、首をぷるぷると左右に振る。 「どうするもこうするもないよ。相手は学年一の美人、一般ピーポーの私に勝ち目なんてないよ」 「ふうん」 彼女はそう言って、背もたれに体を預ける。 「そっか」 彼女の目が、窓の外を向く。店の前の道路では、信号待ちの車が灰色の排気ガスを吐き出していた。 「美香が上手く気持ちを整理できるんだったら、それでいいけど」 カラン。 グラスの氷が音をたてる。それが始まりのゴングかのように、香織はまたポテトフライをむさぼっていく。 気持ちの整理ができるか。そんなことを問われても、はいできますと、簡単に答えられるわけがない。あの日の、月夜の遭遇を思い出す。その記憶が頭をよぎるたびに、私の心は竜巻が通った後みたいに荒れるのだった。 ある小説の一節が思い浮かぶ。『悲劇的な人生はロマンチックだ』。その小説に出てくる女の子のセリフだ。その後には、こんな言葉が続く。『それが他人の人生ならね』。
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