この恋が叶わないことは分かっていた。

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一週間後、良介と小原さんが付き合っているということが、学校のあちらこちらで話題になった。聞くところによると、実はずっと前から小原さんは良介のことが好きで、何回も野球部の試合を見に行っていたらしい。学年一の美人と付き合うことになった、それは良介をヒーローにするには十分すぎるほどの出来事だった。 私は公園で二人を見た日から、良介と距離を置いていた。しかし、今となっては、彼を茶化す男子にいつも囲まれていて、近づこうと思っても近づけなかった。 「どうやって告白したんだ」「いくら金を積んだ」「騙されてるんじゃね」 昼休みの教室、良介を囲み、男子たちがどうでもいい質問を繰り返していた。私はちらりと、集団の中心にいる良介に目を向ける。その顔はにやけていて、茶化されながらもまんざらでもないという表情だった。それが、私の心を余計にイライラさせた。 「どこまでやったんだ」 ある男子の質問が、私の耳にも届いた。教室で、みんなが聞こえる中で、そんな節操もない質問をする男子たちが信じられなかった。私は席を立ち、教室を出る。廊下にいても、男子たちの馬鹿笑いが聞こえてきた。 私は校庭の隅のベンチに座る。空を見上げると、薄い雲に覆われて、どんよりとしていた。 ポケットからスマートフォンを取り出す。それには、ピンク色のクマのストラップが付いている。このストラップを買った時のことを思い出す。 「このキャラ、かわいいな」 修学旅行の最終日、お土産を探しているとき、いつの間にか隣に良介がいた。 「そうだよね。ゆるいというか、憎めないというか」 そのキャラは、この地域のご当地ゆるキャラだった。せっかくだからストラップくらい買おうかなと考えていたのだ。 「じゃあさ、色違いで買おうぜ」 「えっ」 良介の提案に、私は驚く。彼が何とでもないふうに言うので、私も動揺を見せないようにした。私はピンク色、良介は青色、おそろいで買った。 それから彼が、そのストラップを付けているのは見たことがないけれども、私はスマホに付け、静かに自分の主張をしていた。 あの時の、ほのかに胸をくすぐられた気持ちが、懐かしく思える。ただ色違いのストラップを買っただけ、それだけのことに、心が弾んだ。今の私はどうか。心は、この曇り空みたいにくすみ、重く、地面に沈み込みそうだった。 私は、どうすれば良いの。 心の中の問いかけに、答えは出ない。雨がぽつりと頬に落ちたが、ぬぐう気分にもなれなかった。
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