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季節は確実に進んでいた。雨が降るたびに、気温はじわじわと下がり、朝晩はキンと冷えるようになった。
放課後の教室で、私は席に座ったまま、窓の外の景色を見ていた。昨日まではずっと雨だったのに、今日の空は雲一つない。しかし、風が強く、涼しいというよりも肌寒い、と言った方がいいかもしれない。心まで寒々となってしまう。
何日たっても、気持ちの整理はできていなかった。むしろ、日がたつごとに、胸の内側が侵食されていき、体の中の空洞が広がっていくようだった。いつか、私の中身はすかすかになり、砂のお城みたいにさあっと崩れてしまうかもしれない。女心と秋の空、という言葉を思い出す。確かに、秋の空は移ろいやすい。でも、なかなか変えられない女心だってあるんだと、誰かに訴えたくなる。
「美香、大丈夫?」
その言葉に、私ははっとする。目の前に、香織の顔があった。心配そうな表情で、私の顔をのぞきこんでいる。
「えっ、何が」
「何がって、ずっと窓の外を見つめてるから」
「うん。大丈夫だよ。ありがとう」
「そっか」
そう言いながらも、彼女の眉は八の字のままだった。
私は教室の時計を見る。ホームルームが終わり、もう二十分もたっている。教室を見渡すと、残っているのは私と香織だけだった。
「やば、もうこんな時間か。私、帰るね」
私はカバンをつかみ、席を立つ。そして、廊下を大股で進んでいく。
「ねえ、美香。私には、なんでも言ってくれたら良いからね」
後ろから、香織の声がする。私は気にせず、足を進めていく。
「だから大丈夫だって言ってるでしょ」
「麻里も、沙奈枝も、心配してるよ」
「じゃあ、私は大丈夫だって言ってて」
「良介も、心配してる」
私はその場に立ち止まる。振り返ると、そこには、困ったような、今にも泣きだしそうな、香織の顔があった。
「こんなことになったけどさ。今まで通り、一緒に遊びに行ったりとかさ、話したりとかさ、していけばいいと思うし、普通に友達としてなら……」
「ほっといてよ」
二人きりの廊下、私の言葉が反響した。
「私のことは、ほっといて」
「そんな、ほっとけないよ。だって……」
「どうせ私の気持ちなんて分からないでしょ」
声が、震えた。肺が、にぎり潰されたように苦しくなる。
彼女の目は、左右に揺らいでいた。うっすらと潤んだ瞳が、私の視線と合うことはなかった。
私は無言で、その場を離れる。さっきよりも、もっと大股で、廊下を進んでいく。私の足音だけが、おおげさに響いている。そこには、誰の足音も、誰かの声も付いてこない。
全身が興奮している。呼吸は荒く、体の芯は熱い。しかし、胸の奥には、捕えようのない寂しさがいすわっていた。
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