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第44話 ジロウ
レセプションの翌日から、フィエロは無事オープンとなった。オープン当初からお客様の反響が大きく、翌月以降も予約で埋まっている。
一日中目まぐるしく動き回り、家に帰って風呂に入った後は、ボケっとしてしまう。
風呂といえば、引っ越しする家は、でかいバスルームがあるところにしよう!なんて意気込んでいたが、そう簡単には見つからなかったなと、ジロウは考えていた。
賃貸のバスルームは、二人で入れないことはないが、意外と窮屈。なのでリロンには「ひとりで入る」と言われている。こりゃ、またすぐに引っ越ししないと…と言うと「ここで充分」と笑われてしまう。
「なぁに、ボケっとしてんの!明日は久しぶりの休みだけど、やることあるんだろ?早く寝ろよ」
風呂の大きさを考えていたら、風呂から出てきたリロンに早く寝ろと声をかけられた。
「疲れてるのかなぁ…でも頭が冴えてて寝れそうにないんだよな」
気が昂っているのか、ベッドに入っても寝られそうにない。
「じゃあさ…頭を空っぽにさせてやろうか?」
おお…?っと、リロンを見るとニコニコと笑っている。リロンからの誘いは珍しい。
「そっか!そうだよなぁ〜それがいいよなぁ、うんうん。空っぽにすることは大事だしな。良いこと言うな、リロン」
お誘いを受けたので、グイグイとリロンをベッドルームに連れて行き、ベッドにトンっと寝かせる。もちろん、すかさず上から覆い被さった。
「さっきまでボケっとしてたくせに…そんなに機敏に動けるとは…」
「いや〜リロンがさ、誘ってくれるなんてあんまりないじゃん?レアだよ?そう考えたら、そりゃ張り切るだろうよ。ちょっと興奮してきちゃったし」
「いや、俺が誘う暇なんかないくらい、ジロウさんがあの手この手を使うからさ」
「好きな奴と二人でいたら、そりゃそうなるだろ」
そう言いながらシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になりリロンを見下ろすと、ちょっと後悔したような顔を見せていた。これから一度では終わらないセックスが始まるのがわかっているようだ。
相変わらずしつこいくらいにリロンの顎にキスをする。ここから首にかけてが本当に好きなんだ。
「…キスマーク付けないでよ。怒られちゃうから…」
「えっ?怒られたことあんの?」
怒られる?と聞き、キスを止めてガバッと起き上がった。
リロンを見ると「うーん…」と言い、何ともいえない顔をしている。
「縁江さんにさ、言われたことあるんだよね『リロン、パートナーを上手く調教するのもあなたの腕次第だ』って…首の後ろにキスマークが付いてたのが見えたみたいでさ」
「いっ!!マジかっ!!」
ヤバい…気をつけなくてはいけない。縁江も持田も、ジロウとリロンの関係を知っている。だから遠回しに、ジロウが叱られていることになる。
「あれ?でもさ、首の後ろって…スーツだと見えないだろ?そんな上に付けたことないぜ?」
興奮してキスマークを付けがちではあるが、リロンに迷惑をかけないように、ジロウは案外気を使っているところがある。
だからいつも、見えないところにしつこくキスをしている。
「プライベートで縁江さんとランチに行った時だよ…Tシャツ着てたからさ」
「…マジか」
縁江と持田は、リロンのことを可愛がっている。二人に子供はいないので、リロンを息子のように思ってるんだなと、感じるほどだ。特に縁江はプライベートでリロンに料理を教えたり、ランチに行ったりしているらしい。
「縁江さんと仲良いよな。家に遊びに行ったりしてんだろ?」
「うん。あのね、色んなこと教えてくれる。この前は、玉子焼きでしょ…それから稲荷寿司の作り方教えてくれた」
「前の仕事と同じ感じ?お姉さんたちから教えてもらったみたいな?」
リロンの昔の生業。それと同じことを縁江にもしているのだろうか。そう考えると心配となる。
「あははは、全く違うよ。プライベートだからさ、縁江さんの家に行くと、ご飯も縁江さんが作ってくれて、食べると眠くなるから寝ちゃうんだけど、そうすると『ほら、こんなとこで寝ないでこっちで寝なさい』って布団が用意されてるんだよ。だからそこでひとりで昼寝したりしてる。縁江さんの家だと、俺はなーんにもしないよ。でもさ、俺もちょっと料理作れるようになりたいって言ったら、この前から教えてくれるようになったんだ」
「…お前、やっぱり完全に息子扱いだな」
「そうかな。どうなんだろね」
リロンは母親の記憶がほぼ無いらしい。家族というものにあまり縁がないようである。以前、クミコとジロウの関係を羨ましいと言っていたこともあった。
「縁江さんに取られちゃう。クミコがいたらクミコにも取られちゃう!リロンは俺のものなのに!」
ふざけてリロンの首に齧り付いてやった。
「ちょっ!だからやめろよ、キスマーク付けるのは!」
「見えないところならいいだろ!お母さんに見られないところにするから」
あはははとリロンは爆笑している。
「お母さんか…お母さんってあんな感じなのかなぁ。めっちゃ世話焼きだよ?」
「おい!もうベッドの上でお母さんの話は禁止な!」
「ジロウさんが言い出したんじゃん!」
リロンを黙らせるために唇にキスをする。クスクスと笑い合っていたが、そのまま深いキスに変わり、吐息も濃くなってきた。
リロンの顎と首筋にキスをして、そのまま服の裾から手を入れて捲り上げた。胸から腹にかけては、見えないからキスマークを付けても怒られないだろう。
リロンの腹は綺麗だ。白くて肌が薄くて、ちょっと唇で強く擦るとすぐに赤くなる。それを見るとジロウは興奮してしまう。
リロンの服を脱がし久しぶりに二人で抱き合う。肌と肌が擦れる感覚が気持ちいい。
リロンの唇も首筋も、耳も胸も何もかも食べ尽くしてしまいたい。ジロウはリロンの両手を抑えつけ、身体中にキスをしていった。
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