番外編 クミコ

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番外編 クミコ

ニューヨークまであと何時間?フライト中は退屈だ。ジッと座ってる時間が長いから、ニューヨークに到着したら、すぐに夜の街に遊びに行こうと思う。 それにしても今回の日本滞在は面白かった。ジロウが恋をして、本気になる相手にも会えたし…と、クミコはニューヨークまでのフライト中にうつらうつらと思い出していた。 弟は小さい頃からフラフラとして目が離せない存在だった。大人になってから『フィエロ』という名のリストランテを経営し始めて、日本では有名になっていった。 クミコ自身もニューヨークに数店舗、経営していたレストランがあるので、ジロウの活躍は嬉しく応援していたが、ジロウの経営も数年しか続かなかった。 ジロウの異変はすぐに気がついた。作り出す料理の味は変わらない。誰が食べても美味しいと言い、クミコ自身も変わりなく美味しいと思った。だけど、それを作っているジロウが変わっていた。 味覚障害。シェフにとっては致命的。 ジロウもそれはもちろんわかっている。だから、女や酒に走り、自暴自棄になった。 フラフラしている弟が心配で、バーシャミという名のバルを一店舗任せた。金儲けではなく、ジロウのリハビリになればいいと思って渡していた。そして、バーシャミは長く続かないだろう。そう思い期間限定としていた。 そんなジロウをもう一度ニューヨークに連れて行こうとして、今回日本に来た。それなのに、ジロウは急に気持ちが変わった、もう一度フィエロをやり直すと言う。 しかも、自分の料理の指針となる人を見つけた。愛している人だ。人生は食事と愛だろ?と言い、その人と一緒に日本に残り、もう一度自分を試したいと、ジロウは言ってきた。 そしたらもう、会わせなさいよ!となるのは姉なら当然だろう。可愛い弟が騙されているかもしれないんだ。私が溺愛している弟に何をしてくれたんだ!どこのどいつだ!上等だ!と。 そう思いほぼ喧嘩腰でバーシャミに向かった。そこには、ジロウを丸め込んだ奴…ジロウが愛してるという奴がいる。 「リロン、元気かなぁ…」 クミコは独り言を呟いてしまった。ファーストクラスの座席の隣には、日本から連れて来た子が座っている。 「リロン?元気でやってると思いますよ」 そうその子は答えてくれた。リロンが紹介してくれた子だ。 喧嘩腰でバーシャミに行ってみたが、そこには丸腰で受け入れてくれる男の子がいた。あのジロウが?男の子?とびっくりした。女を見れば後を追いかけ、あっちこっちとつまみ食いばかりしていたジロウが! 紹介されたリロンは、人の気持ちを察する力を持っていた。それも嫌味ではなく体に染み付いているようなものだ。 リロンに会い、クミコの気持ちがストンと整理された。気持ちいいくらいに。 リロンに会い、彼に魅了された時、ジロウのことをお願いしようと心から思った。いや、それよりジロウにリロンをお願いしようという気持ちに最後は切り替わっていた。お前!しっかりしろよ!リロンを大切にしろ!と、リロンに見えないところで何度もクミコはジロウに伝えていた。 「リロンはさぁ、ジロウの面倒を見るのが大変じゃないかしら…やっぱりさぁ、ニューヨークにリロンを連れてきた方が良かったよね?」 隣のシートを覗き込み、クミコは一方的に話し始める。 「クミコさん、そしたらリロンを呼べばいいんですよ。ちょっとニューヨークでお願いしたい手伝いがあるって言えば…リロンは気になって来るんじゃないですか?」 隣のシートに座る子は嫌な顔をせず答えてくる。さすがリロンが紹介してくれただけある。 「だっよねぇ〜!そうしよっかなぁ、ジロウの束縛はキツそうだし。リロンを連れてきてそれで2、3年くらいニューヨークの私のそばに置いてもいいよね?遠距離って愛を育てるっていうしぃ?」 ウフフ、アハハ閃いちゃった!とクミコは退屈なフライト中に考え始めた。 リロンにフィエロのフロアスタッフとして、面接を受けさせたのは、あの才能があったから。毎日近くに置いて、色々な店のサービスを見せると、面白いくらいリロンはどんどん吸収していった。それに毎日生き生きとしているのを感じた。 何もしないでいるのって地獄よ、ジロウ。ただ、囲ってるだけってどうなの?と、ジロウに伝えたことがある。 リロンを大切にするあまり、手元に置いておくことばかりを弟は考えていた。そんなの吐き気がするほど窮屈で退屈なのに。 「ま、今回のジロウは怖いくらい本気だからなぁ。ニューヨークに連れてきたら、リロンを取った!とか言われて、ものすごい勢いで連れ戻すんだろうなぁ。だけど…」 だけど、リロンを自由にしておいてあげないと、またちょっかい出しちゃうぞ。私だってリロンが可愛いんだからと、クミコは考えて笑った。 「よーし!ニューヨーク着いたらパーティーしよっか!」 「あはは、いいですね。準備しますよ?」 「やったぁ!Party on!」 とりあえず一回寝よっと、クミコは目を閉じた。 end
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