お知らせ

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アリスは彼と前に会ったことがあるような 不思議な感覚を抱きつつ なんとか正気を保って手紙を取り出した 「こ・・・こんなことを書いて渡すなんて いったいどういうおつもりですか? 」 北斗は手紙に目を向けようともしなかった 彼も今のアリスと同じ感覚を抱いているような気がした 「そこに書いてある通りだ 」 アリスは手紙を握りしめて 必死に考えを整理しようとした ほんの数10センチ隣に座っている 成宮北斗の圧倒的な存在に 椅子からころげ落ちないように じっとこらえているのが難しかった さっきよりは呼吸するのが楽だが こんどは別の違う意味で呼吸が苦しい この人の近くはなんだか酸素が薄い 「そうは言われましても・・・ 私は鬼龍院さんと婚約して三か月になります これまで彼の知人、友人からは 彼が問題があるようなお話は伺ったことはないわ」 「鬼龍院は性癖を隠している」 「それなのにあなたには隠してないと言うんですか? なんのために? なぜそのような情報を手に入れられるの?」 目の前にいる彼は 背後から照らされた緩いオレンジ色のガス灯に 照らされて顔が半分陰になっている 「アイツは俺に馬を高く売りたいために 俺の気を引きたがっている 現にSMクラブにも何回も誘われているし 俺の弟達にも性病のことを話している 間違いない 君は結婚初夜で鬼龍院から梅毒を移される」 じっとアリスのつま先から顔まで眺め まっすぐな瞳でアリスを観察して言った 「それとももう手後れかな? 」 カッと頬が赤くなった なんて無礼な人なの? ごくりと唾を呑み 心臓をのどから押し下げて 悪態にあたらない言葉を探した アリスはこの無礼者と距離が近すぎると思いつつもなぜかこの席を離れる気が起こらないのが 不思議だった 「・・・こんな・・・ 手紙をあなたはいつも持ち歩いているんですか?」 北斗はアリスとの目線をすっとそらした まるでいつまでも見つめ合うのが 彼には耐えられないとでもいうように 「・・・恩師のお孫さんに実際に会って 救う価値のある女性なら渡そうと思って夕べ書いた」 「褒めてくださっているのかしら?」 思わず皮肉が出た 「鬼龍院は救いようのない色欲者で 君の財産しか見ていない 」 ズキンとアリスの心が痛んだ それはまさにアリス自らの心の中に 常に自問自答していた事だし 分かり切っていることだ しかし敢てそれをハッキリ他人に言われるのは 身を切られるような痛みだった なので女子大学を卒業した頃から 次々に押し寄せる求婚者達には十分気を付けて 見てきたつもりだ 「・・・・私はそれほど愚かではないわ 自分の最大の魅力が伊藤家の財力であるのも 充分承知しています 」 屈辱でみぞおちが焼かれる気分だった 「むしろ自分の魅力が財力しかないのも・・・」 とても小さな声だったので 彼に聞かれたかどうか自信がなかった アリスは小さくため息をついた どうしてこんなことになってしまっているのだろう 「俺ならいつでも君を娶る(めとる)」 北斗がだし抜けに言った アリスは目をぱちくりした 「なんですって? 」 「君を娶ると言ったんだ 君の資産にはまったく興味ないが」 アリスが今聞いた言葉を信じられないと ばかりに顔をしかめた 「でしたらどうして私に求婚なさるの?」 再び北斗がアリスを見つめて言った 「俺と君ならうまくいく 」 「どうしてわかるの? 私達ほんの1時間前に会ったばかりよ?」 好奇心から尋ねた 「わかるんだ」 アリスはあっけに取られて 笑うべきか怒るべきかわからなくなった 「・・・こ・・・・ こういうことをよくなさるの? 若い女性に婚約者の性癖をバラして 自分と結婚するべきだと口説いてまわっているとか?」 「君が初めてだ」 北斗は唇の端をわずかに上げて アリスを見た 「もっと正確に言うと君を見るまで 誰とも結婚する気はなかった」 「なら・・・ どうして私と結婚する気になったの?」 「君が美しいから」 アリスは鬼龍院がこの人を「変人」だと 言っていたことを思い出した たしか幼い頃に父親に虐待されていたとか・・・ かわいそうに・・・・ 彼はその名残りで自分の言っていることが わからないんだわ    その証拠にアリスはお世辞こそあれ 人並みの容姿だし自分のことを美しいなど 一度も思ったことはない
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