お知らせ

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アリスは可哀想な祖父の姿をまた思った 夜になると徘徊しないために ベッドにロープでくくり付けられている姿を 目の前にいる成宮北斗もそこまでとは 言わないがやはり鬼龍院の言う通り どこかおかしいのかもしれない そして今の自分は祖父のおかげでおかしい人に かなり免疫が出来ている でもアリスはなんだかこのおかしい変人と こうして一緒にいることにだんだん 心地よさを感じていた でもこの心地よさに馴染むわけにはいかない すると北斗が考え込んだ風に言った 「もっと正確に言うと 俺は君と寝たい 」 「なんですって? 」 この人に会ってからこの言葉ばかり言ってる気がする アリスは目をしばたいて半笑いで尋ねた 「ええ・・・と・・・ つまりはこういうことかしら? あなたは伊藤の財産には興味はないけれど 私とベッドを共にしたいと・・・ でも私は恩師の孫でもあるし品位のある令嬢だから 結婚しなきゃいけないって・・・・こと?」 コクンと北斗がうなずいた 「そのとおり 俺は遊びで女と寝る男ではない」 アリスが上ずった笑い声をあげた 「まぁ・・・成宮様・・・ それでしたら少しそのお考えは早計ではないかしら 私と一度ベッドを共にしたら ガッカリして結婚したことをきっと後悔しますよ」 北斗が首を振った 「それは絶対ない それに一度だけではなく何度も君と ベッドを共にしたいんだ、数えきれないほど」 北斗はアリスが驚きあきれるのを じっと見つめている 彼の言い方になぜかアリスの無垢な体に 火を付けられたような気がした 自分の頬が熱くなっているのを感じる 夫婦の営みは女性には楽しめるものではないと 母親からたびたび聞かされていた しかし女学生時代そっちの方面に進んでいる 学友からはあれほど良いものはないとも聞かされていた 鬼龍院といてもこれほどの情欲は まったく湧き上がってこないのに 目の前であけすけに自分と肉体の交わりを楽しみたいと 堂々と申し込んでいる男性になぜかときめいているなんて 今・・・まさにこの瞬間・・・ この人の深みのある声が アリスの神経を伝わって心をそそる 彼の大きな手が・・・・ 唇が・・・ 自分の身体を這う所を大胆にも想像してしまった この人となら友人が言ってたように 男性の身体と触れ合う悦びを教えてくれる かもしれないなんて・・・ 恥ずかしくて絶対口に出せない さらに北斗がアリスに言った 「君と何度もそういうことをしたら 子供ができる・・・・ 俺はその子を俺の子として大切に育てたい」 アリスは椅子の背に頭をのけぞらせて笑いたかった 冗談でもまさかそこまで考えているなんて 「あなたのご親切には感謝しますわ たとえお世辞でも嬉しかったです」 北斗が椅子の肘掛けをきつく握りしめた 「俺と結婚すれば 鬼龍院は君にもう近づけないし 君から三度目の婚約破棄の悪評から守ってやれる」 アリスはふと眼下の舞台を見やった 舞台中央にはスポットライトを浴びた 重そうな和装の衣装を着た歌舞伎役者が 目玉をまわし見得(みえ)を切っていた 蜘蛛の巣のような紙吹雪が スパイダーマンのように手の平から 発射され観客席まで吹き飛び散っている 「あなたにここへ押し込まれている所を 誰かに見られていたら 私の評判はすでに傷ついてしまっているわよ」 「俺達なら乗り越えられる」 アリスはもう返す言葉もなかった ここは母に教えられた通り 憤慨して立ち上がり ツンと顎をあげて立ち去るべきなのだろう
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