chapter2 花嫁を追いかけて

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渡り廊下を渡って 北斗がコーラの缶が入った段ボール二箱を抱えて 肩で本家の玄関のドアを押した そこで一番最初に目に入ってくるのは 牧場の従業員も使う8人掛けの大きな長テーブルだ しかしその上は散らかり放題に荒れていた キッチンは生ゴミ置き場の匂いを充満させ 食べ物のカスが付いた皿がカピカピになって テーブル中あちこちに無造作に置かれている プラスチックのコップを持ち上げると 「にちゃっ」と液体状のモノが コップの底とテーブルに糸を引いた そのテーブルの上のゴミを一気に腕で下に落とし コカ・コーラ―の段ボールを置いた 北斗は目を閉じて母親が生きていた頃を思い出した 母は手先の器用な人だった テーブルに並ぶ美味しい料理 レースのカーテンが風に揺れる出窓 台所の笑い声・・・・ 心の底から懐かしかった そして床に散々している色んなゴミを蹴りながら キッチンの奥のリビングに向かう リビングはとても広いが 黒の革製の北斗のような大男が2~3人 寝転がっても十分な大きさのソファーが L字型で大型テレビを囲んでいた しかしもはやそのソファーの背もたれは ハンガーラックのように 男三人の洋服が山積みにかかっていた それぞれの部屋で着替えないからこうなるんだ・・・ ハァーッ・・・ とため息をついて北斗は思った その時服の山の中からひょこっと くしゃくしゃの黒髪の男の子が顔を出した アンパンマン柄のパジャマを着ている こぶしで片目を擦りながら7歳の 成宮明(なりみやあきら)が 北斗を寝ぼけまなこで見た 「アキ・・・ どうしてお前は二階のベッドで寝てないんだ?」 明の唇が動きかけるのを見て 北斗は胸が締め付けられた その時の不安感・・・ なかなか出てこない言葉を絞り出そうとする時の 辛さは知っている この小さな義理の弟も 自分と同じ問題を抱えている 自分とはまったく血がつながっていないのに 不思議なものだ・・・ 継母が浮気の末に蒸発した時の置き土産だ 北斗はしゃべろうと明が苦労しているのを 根気強く待った 「な・・なっ・・ ナオがいっ・・・一緒に寝てくれるって い・・言ったから待ってたら・・ ね・・寝ちゃったの・・・   」 明はようやく言った 北斗は明を抱き上げていかにも彼が 岩のごとく重いかのように振舞った 「重くなったぞ!腕が抜けそうだ 」 明がクスクス笑って北斗にしがみついた 実際には小鳥のように軽い 少し汗でしめった頭を撫でてやる 北斗の胸に甘いぬくもりが広がる 自分の子供が欲しい 今までは漠然とした夢だったが 伊藤アリスに出会ってからひしひしと 暖かい家庭を夢見るようになっている
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