chapter2 花嫁を追いかけて

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「こいつの酒癖の悪さは年々ひどくなるな~ 」 ビック・ジンが郵便局の帽子を外して 頭をガシガシ搔きながら呆れて言う 自分の思考を言葉にしてくれてありがとうと 北斗は言いたかった 「生きてるのか?」 「さっき確認したときは生きてた」 直哉は二人の会話にしゃっくりで返事した どうやら納屋の藁と青いダウンジャケットの おかげでこいつは凍死から免れたようだ ロングの茶髪は汗で湿り 髭も伸び放題だ 見る限りそうとう泥酔している じっと弟の顔を見る 兄弟はまるでコインの裏と表だった 北斗は陰気で寡黙、直哉は陽気で屈託がなく おしゃべりが上手だ 当然両親は直哉を可愛がった 顔は父親の良い血筋を引いて彫が深く男前だった 髪もロングで軽薄に茶色に染めてはいるが とても似合っていた 北斗がこんな髪型をすれば みんなの笑いものになる 二人とも牧場の仕事で筋肉質で屈強だが 外見の良さはすべて直哉のほうに現れている 直哉が気楽に生きている事を北斗は羨んで 当然だがそうは感じていなかった 直哉はとても人好きがするので むしろ厳しくて堅苦しい北斗と牧場の従業員や 町の人間との良い潤滑油になってくれていた それに直哉は北斗にとってこの世でただ一人の 肉親で両親が無くなってからはたった二人で 力を合わせて生きて来た そしてポッと義理の弟が出来てからは 子育ても二人でやってきた 北斗が明を背負って 直哉がオムツを替えてきた そうやって三人で力を合わせて生きて来たのに このところ直哉が飲んではめをはずすのは 毎週末の恒例行事となっている まったくどうしようもないヤツだ 成宮家の人間は酒は強くない 父は酒がたたって死んだのに それなのに直哉はこんなふうに父と同じ過ちを 繰り返そうとしている そこに牧場の従業員も集まって なんとか直哉を母屋の自室へ運んだ 目が覚めたら怒鳴りつけてやる そこへ着替えを済ませた明もやってきた 「な・・・ナオ・・・大丈夫?」 心配そうに泥酔している直哉をじっと見ている たぶん心の中では色々と思っているのだろうが それを言葉にするのは難しそうだ 北斗は泥酔している二番目の弟と 歳が離れすぎている小さな義弟をじっと眺めた 今まで弟達に対する責任を一人で背負ってきた この家は食器が銘々に席に用意されることもない 花もレースもカーテンもない 居心地の良い住まいを作るには女性の手が必要だ しかしこの男三人兄弟に 牧場の従業員これまた男8人の 成宮カントリーランチにはそうしたものが 決定的に欠けていた まだ小さな弟を見て北斗は考える 自分が結婚するべきなのだろう この家に女性が入り家がもっと快適な場所になったら 二番目の弟もここまで町に出て 飲み歩くこともなくなるかもしれない 家にいたくなるような楽しみが何もないのだ
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