婚約解消されかけたので、推しを愛でるために婚約継続を提案しました

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婚約解消されかけたので、推しを愛でるために婚約継続を提案しました

「すまないエリザベス、君との婚約を解消したいんだ」  王太子セドリックの執務室に呼び出されたエリザベスを待っていたのは、婚約解消の申し出だった。  一瞬頭が真っ白になる。  そして思い出した。  ここが前世でちょっとヤバイくらいハマったBL系恋愛ゲームの世界であることを。  エリザベスは、ふらついた体を机に手を付いて支える。  その様子をみたセドリックは心配そうに「大丈夫か?」と声をかけてくる。 「大丈夫ですわ」  いつも通りの落ち着いた声で返事をしたが、内心は全く大丈夫ではなかった。  セドリックは金髪碧眼のまさに王道なイケメン。そして、その後ろに控える黒髪赤眼のがっつり筋肉質のイケメン護衛騎士ローゼン。 (最推しカプが目の前に──っ) 『ローゼン×セドリック』  無課金勢だったのに、溺愛ルートが見たい欲には勝てず、ルート解放されたら即課金した。  一度課金したら、その後は歯止めが効かずアイテム課金も沢山した。  ゲームをプレイするだけでは足りず、アニメショップでグッズを買い漁った。  同人誌も買ってたし、自分でも描いていた。  旬ジャンルだったのでイベントにも沢山参加した。  グッズ費や遠征費で湯水のようにお金が消えていったので、食費や光熱費を削りながら生活していた。  まさに推しに命をかけた生活を送っていた。  その最推しカプが目の前にいるのだ。  大丈夫なわけがない。 (ヤバイ、鼻血が出そう……)  思わず目と鼻を押さえて天を仰ぎ見る。 「エリザベス、本当に大丈夫なのか?」  挙動がおかしいエリザベスをいよいよ心配するセドリック。  セドリックは優しい。  きっとこの婚約解消もかなり悩んだ結果だろう。 「何故、婚約解消なのか理由をお聞きしても宜しいかしら?」  ローゼンが控えているということは、おそらくローゼンルートの弊害であるエリザベスを排除するために婚約解消するのだろう。しかし、それはゲーム内容を知っているから分かることだ。ここに居るのが前世を思い出す前のエリザベスなら、何故?と思うだろう。  それに護衛騎士のローゼンが控えているからといってローゼンルートだとまだ決めつけるのは早い。 「実は……」  セドリックはチラッとローゼンに視線を向けた。ローゼンは真摯な表情でコクりと頷く。  その様子だけで、エリザベスは察する。 (嗚呼、やっぱり『ローゼン×セドリック』のルートなのね!!)  心の中は歓喜乱舞していたが、平静を装い黙ってセドリックの言葉を待つ。 「私はローゼンを愛している。君には本当に申し訳ないと思っているが……この気持ちを隠したまま君との婚約を継続出来ない」  セドリックは優しく真面目な青年だ。  黙ってローゼンとの関係を続けていても、別に問題にはならないのに、とエリザベスは思う。 (でも、これって上手くいけば、推しをずっと近くで見られるのでは?)  エリザベスは高速で、良い方法はないか考える。 「お世継ぎはどうされますの?」 「それは……」  セドリックは口ごもる。  この世界は同姓婚も承認されている。しかし、セドリックは王太子だ。世継ぎを作ることは責務とも言える。  当然ながら同姓同士では子供は産まれない。  エリザベスとの婚約を解消してしまえば、世継ぎ問題が浮上するのは必死だ。 「私に提案がありますの」  エリザベスはにっこりとセドリックに微笑む。 「提案?」 「ええ、世継ぎを生むためのお飾りとして、私との婚約解消をせずこのままの関係を続ければ良いのです。私は、正妃ではなく、側妃で構いません」  エリザベスの提案にセドリックとローゼンが驚いたように目を丸くする。 「君はそれで良いのか?私の身勝手な願いに付き合う必要はないんだぞ」 「私も厳しいお妃教育を無駄にしたくありませんし、今から新しい婚約者を決めたり、その方と親交を深めていくのも面倒ですし」  本当にお妃教育は大変だった。  せっかく頑張って王族へ輿入れするために頑張ってきたのだ。ここで婚約解消されるよりも、継続して貰った方が家のためにも良い。解消されたら、きっと父は嘆くだろう。 「ただ、条件がいくつかあります」  推しを愛でるための条件だ。  向こうが負い目を感じている今、条件を出してしまえばこちらのものである。 「条件とは?」  セドリックは覚悟するようにゴクリと唾を飲み込む。 「輿入れした際には、セドリック様とローゼン様は──もちろん一緒の部屋ですわよね。私をお二人の隣の部屋にしてください」 「それは構わないけど、それだけ?」 「それから、お二人の姿を見つめさせて下さい」 「……?」  意味がわからないようで、セドリックは首を傾げているが、構わずエリザベスは続ける。 「あ、出来ればローゼン様の筋肉に時々触る許可をいただけると嬉しいですわ」 「筋肉を触る……エリザベス、もしかして君もローゼのことを?」 (まあっ、ローゼン様のことを「ローゼ」と呼んでいるのね。ゲームと一緒だわ!)  セドリックのローゼ呼びに興奮するが、誤解は解いておかねば。 「いいえ、私が好きなのは筋肉ですわ」  エリザベスは大変な筋肉フェチでもあった。 「筋肉……」 「ええ、筋肉は最高ですわ。私、以前に訓練中のローゼン様の上半身をみたことがあるのですが、実に素晴らしく美しく引き締まった筋肉でしたわ。その美しい筋肉のローゼン様に抱かれるセドリック様……嗚呼、なんて素敵なのかしら!あ、声に出てしまいましたわ」 「……」  エリザベスの本音に、二人は言葉もなかった。ドン引きされたのかもしれない。 「な……なんと、破廉恥な……」  かあっと耳まで真っ赤にして震えるセドリックと、肩を小刻みに揺らして笑いを堪えるローゼン。 「セド、エリザベス様の条件を飲んで、婚約継続で良いのでは?心配していた世継ぎ問題も解決するし」 「ローゼは良いのか、この条件で……時々筋肉触られるんだよ?」 (ローゼン様のセド呼びも良いですわね。それに、もしかしてセドリック様は私がローゼン様の筋肉を触るのが嫌と……嫉妬ですわね。素晴らしい!嫉妬も二人の仲を深めるスパイスですもの!)  エリザベスのテンションは爆上がりである。  たぶん普通の会話をしていても、BL変換されてしまう自信がある。 「まあ、時々触られるくらいなら、どうってことない。それにエリザベス様は、俺のこの筋肉に抱かれるセドが見たいみたいだし、見せ付けたい気持ちも……見たいですよね?」  最後の言葉はエリザベスに投げ掛けられた言葉だった。 「ええ、是非!!」  間髪入れずに是とエリザベスは唱える。  さすがに夜の営みを見せてとは言えなかったので、ローゼの筋肉を触って触感を記憶に刻み付け、隣から聞こえてくる声でオタクの創造力を総動員して妄想する予定だった。  それを見せてくれるというのなら、拒否する理由はない。 「嘘でしょ……」  全く気にする様子のないローゼンと、目を輝かせるエリザベスの間で、セドリックは頭を抱えるのだった。 ~fin~
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