3.触感と回顧

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翌週の土曜日。夕方前に食材を買いにスーパーへ出かけて自宅に戻ってくると同時に、スマーフォンに着信が着てきたので通話を繋いでみると新潟の叔父だという人物から電話が来ていた。 「ああ啓吾か?わかるかな?」 「えっと……親父の弟さんですよね?」 「そうそう、良かった覚えていたんだな。あのさ急な話で申し訳ないんだけど、来月の半ばにこっちにかえってくることってできるかい?」 「何かあったのですか?」 「やっぱり連絡行っていなかったか……実はね、啓吾の両親の遺体が自宅があった敷地内からようやく見つかったんだよ」 「遺体……ですか?」 「ああ。避難区域が今年になって解除されて捜索してもらえたんだ。本当に残念だったけどとりあえず葬儀を行う事になったんだよ。お前も出席してもらいたいんだが仕事の休み取れそうかい?」 「ええ、まあ法事という事であれば取れると思う。また僕から連絡する。この電話番号にかけてもいいですか?」 「ああ、ありがとうな。じゃあ待っています。啓吾、あれから体調はどうだ?」 「お陰さまで何とか仕事も順調にできているよ」 「そうかわかった。元気な声が聞けて良かった。それじゃあまたな」 数年ぶりの懐かしい声だった。 叔父の顔は思い出せないが父親と親しかったことだけは朧げに覚えてる。やはり両親はすでに他界していたのかと考えると、無念の灯火が胸の中に揺れながら焚いていった。僕は唐突に神村の事を思いリビングのドアの向こうに見える玄関口に目をやると、以前借りていた傘が置いてあったので四谷まで行こうと思い立った。 ダウンジャケットを羽織り急ぎ足で駅へ向かうと、ちょうど特急快速の電車が到着したのでそれに飛び乗った。その後四谷に着いて小料理店のドアを開けると、神村がカウンター席で開店準備をしていたのを見て彼女も僕が訪れたことに驚いていた。 「急にごめん。この間の傘持ってきたんだ」 「そうでしたか。わざわざありがとうございます」 「あの……さっき親戚から連絡が来て両親の遺体が見つかったらしいんだ。それで来月向こうに行くんだけど……神村さん一緒について来ることってできそうかな?」 「私、ですか?」 「ああ。葬儀の席に一緒に来て欲しい。君の事紹介したいんだ。一人で行くのが怖くて不安なんだ」 「そうだな。橘さんに相談してからでないと休みもらえないから、このあと聞いてみます」 僕はしばらく立ち留まり彼女を見つめているとどうしたのかと尋ねてきて、腕を掴んで奥の厨房に繋がる居間に連れていき彼女の身体を思いきり抱き締めた。彼女も躊躇(ちゅうちょ)しながらも僕の背中をさすってきて遺体が見つかってよかったと話すと僕は不意に涙が出てきた。 「ごめん。泣くなんて情けないよな。でも……行方が分かって安心したんだ。このまま見つからなかったらどうしようっていつも自分を責めるように考えていたんだ」 「情けなくなんかないですよ。泣きたいときは泣いてください。私、一緒に行きます」 「ありがとう。もう店の人たち来るよね、僕ももう帰るよ」 「尾花さん」 「何?」 「一人で逃げるようなことをしないでください。私……あなたのことを大切に思っていたいんです」 「うん、逃げない。僕も……君の事を大事にしたいって考えている」 「向こうの方に改めてご挨拶したい。私も窮地に陥らないように自分から逃げませんから」 「連絡待っている、それじゃあまたね」 「気をつけて」 その一週間後、いつも通り会社に出社して業務に勤しんでいると宅配業者が玄関口に来て誰か宛ての荷物が届いたと受けった社員が話していた。差出人は僕の名前が記載されていて、依頼人は矢代という身に覚えのない名前で住所が新潟県内からだったという。 「この間も新潟から尾花さん宛てに届きましたよね。今回も全く知らない人?」 「はい。……ん?誕生日おめでとうございますってかいてある。ああ、そうだ。僕、今月誕生日なんだ」 「そうか、それじゃあプレゼントってことで送ってくれたんだね」 「へえネクタイじゃん。尾花さんに似合う色身ですね」 「けど、使うのってなんか不信に感じません?誰宛てからかもわからないんですよ?」 「まあね。取り敢えず保管だけはしておきます」 その夜、自宅に帰ってから夕食を摂っている時に僕はふとあることが頭によぎったので箸を置いて、本棚にあるアルバムを取り出して写真を眺めていくと、息子の幼稚園の入園式の時に正門の前で撮影したその中に、僕が来ていたスーツのネクタイの物と先程会社に届いていたものの色と同様のものだと発覚した。 差出人の名前を確認してどうにかして思い出そうとしてみたが、やはり記憶が辿ることができずに釈然としない気持ちで落ち着かなくなっていた。僕は神村に電話をかけてその件を話してみたが、彼女も知らない名前だと返答していた。 「もしかしたら、地元の同級生や知人の方だとか、そのあたりの人が尾花さんあてに送ってきたものかもしれませんね」 「それなら親戚に連絡して僕の居場所を聞いているはずだよ。一応叔父とかにも聞いたんだがみんな知らないって言っていた」 「あなたの一番大切な人かもしれませんよ。誕生日や記念日にそうして送られてくるのなら、尾花さんのことをいつも見守っている方だって特定できそうだな」 「そうか……とにかく来月また向こうに行ったら親戚の人たちに聞いてみることにする。そうだ、神村さん。法事の件どうなったかな?」 「ええ、行きます。橘さんから休暇もらえました」 「良かった。我儘言って申し訳ないけど一緒に行けるのなら心強い。当日よろしくお願いします」 「こちらこそ、よろしくお願いします」
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