洗濯もの

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洗濯もの

「ぃや!」 月曜日の朝10時。 いつもと変わらない風景。 見えるもの、聞こえる音、街の匂い、何も変わらない暮らし。 機械仕掛けのからくり人形みたいに、日々の繰り返しの動作をしていた私に、亀裂が入った瞬間だった。 悲鳴にも似た言葉を発した途端に、常識や世間体といった概念が崩れていく。 中古マンションの7階のバルコニーは陽当たりが良くて、真冬でもポカポカと気持ちが良い。 出社する夫を見送って、物干し竿いっぱいに洗濯ものを吊るしながら、近所の小学校の校庭を、児童らが走り回る音を聞きながら微笑む。 揃えたハンガーの向き、風に揺れる洋服たち。 いつもなら、幸せな1日が始まる予感のルーディーンワーク… キッチンから流れる、ラジオからのお喋りと音楽。 大好きな番組はないけれど、昼下がりのBGMにはラジオが一番だと昔から思っている。 そんな私を、夫はこう言ってからかった、 「美咲は昭和だな。ラジオなんかスマホで流せばいいのに。わざわざアンティークなラジオを買うなんてもったいない」 「ラジオが良いのよ」 「ふうん」 その言葉を私は無視していたけれど、昭和だななんて言われると「おばさんだな」って遠回しに言われているみたいですこし腹がたった。 夫は知らない顔で、スマホゲームをしている。 「今月の課金はいくらかしら? よくそれでもったいないなんて言えるわね」 と、言いたかったけどやめた。 また論破されるに決まっているし、私がおばさんなのも事実だ。 36歳だもの。 夫と結婚して、すでに10年の歳月が流れた。 同じ会社の先輩と後輩。 付き合って2年経ったホワイトデーに、夫からプロポーズを受けて、苗字を大野から佐々木へと変えた。 子供はいない。 ありきたりの毎日はいつも穏やかで、それは私の思い込みかも知れないけれど、それなりに満足していた。 だけど、ふいにそれはやってきた。 夫の下着が、急に汚らしく思えてしまったのだ。 洗濯槽の中でぐるぐる回る男物の布切れが、私の洋服と絡まり合っている光景が不快でならなかった。 何故だろう。 私は、洗濯機の電源を切ると、夫と自分の洗濯物を別々に洗うことにした。 躊躇なく、自然に身体が動いていた、
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