3人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
洗濯もの
「ぃや!」
月曜日の朝10時。
いつもと変わらない風景。
見えるもの、聞こえる音、街の匂い、何も変わらない暮らし。
機械仕掛けのからくり人形みたいに、日々の繰り返しの動作をしていた私に、亀裂が入った瞬間だった。
悲鳴にも似た言葉を発した途端に、常識や世間体といった概念が崩れていく。
中古マンションの7階のバルコニーは陽当たりが良くて、真冬でもポカポカと気持ちが良い。
出社する夫を見送って、物干し竿いっぱいに洗濯ものを吊るしながら、近所の小学校の校庭を、児童らが走り回る音を聞きながら微笑む。
揃えたハンガーの向き、風に揺れる洋服たち。
いつもなら、幸せな1日が始まる予感のルーディーンワーク…
キッチンから流れる、ラジオからのお喋りと音楽。
大好きな番組はないけれど、昼下がりのBGMにはラジオが一番だと昔から思っている。
そんな私を、夫はこう言ってからかった、
「美咲は昭和だな。ラジオなんかスマホで流せばいいのに。わざわざアンティークなラジオを買うなんてもったいない」
「ラジオが良いのよ」
「ふうん」
その言葉を私は無視していたけれど、昭和だななんて言われると「おばさんだな」って遠回しに言われているみたいですこし腹がたった。
夫は知らない顔で、スマホゲームをしている。
「今月の課金はいくらかしら? よくそれでもったいないなんて言えるわね」
と、言いたかったけどやめた。
また論破されるに決まっているし、私がおばさんなのも事実だ。
36歳だもの。
夫と結婚して、すでに10年の歳月が流れた。
同じ会社の先輩と後輩。
付き合って2年経ったホワイトデーに、夫からプロポーズを受けて、苗字を大野から佐々木へと変えた。
子供はいない。
ありきたりの毎日はいつも穏やかで、それは私の思い込みかも知れないけれど、それなりに満足していた。
だけど、ふいにそれはやってきた。
夫の下着が、急に汚らしく思えてしまったのだ。
洗濯槽の中でぐるぐる回る男物の布切れが、私の洋服と絡まり合っている光景が不快でならなかった。
何故だろう。
私は、洗濯機の電源を切ると、夫と自分の洗濯物を別々に洗うことにした。
躊躇なく、自然に身体が動いていた、
最初のコメントを投稿しよう!