34 あざとい社畜

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34 あざとい社畜

 俺は第一王子とのダンス中、精一杯楽しいアピールをした。第一王子の気分を上げて、こっちのペースに持ち込む義務が俺にはある。  一応、第一王子と二人で話す許可は、父にもガリアードにももらっていた。というか二人きりじゃなくちゃ話せない内容だからだった。  俺に鏡を、第一王子が渡した。その事実を録音しなくてはいけない。第二王子から受けた大事な俺のミッションだった。  ダンス中は、仕方ないから楽しそうに微笑んであげた。そうしたら第一王子、デレ始めた。なに? これってガリアードじゃなくても使える手なの? この人、奥さんいるよね? それなのにリリアンのあざとい攻撃は成功してしまった。というか攻撃していませんよ、まだ何の攻撃もしていないのに、笑っただけでデレるってどんだけリリアンのこと好きなんだよ!? 勝手に堕ちてくれた。  ダンスが終わると、はい。俺の旦那の辺り一面氷点下ですね。嫉妬だよね?   俺は愛されているな、嬉しい。でもどうしよう、すぐにガリアードの元に行って温めてあげたいけど、そんなことしたらせっかくここまで演技してきた不仲説が壊れてしまう。俺は心を鬼にして、ガリアードから目を外して第一王子に微笑みかけた。 「殿下、ダンスとても楽しかったです。王都を離れてからこんなに楽しい夜は初めてです」 「リリアン……、ならもう少し私と話をしようか」 「……はい」  そうして第一王子に手を取られ、エスコートされるままにその場を去った。  ここは王宮、ダンスホールの横の大きな空間がある。廊下や階段の踊り場など、ところどころに三人掛けくらいのソファーが並べられている。そこに第一王子に誘導されて座った。ここには人が沢山いるし、第一王子の護衛もついてきているから俺たち二人だけの世界ではない。 「リリアン、もしかして辺境伯と上手くいってない?」 「えっ……(めちゃくちゃ順調だよ、てへっ)」 「そうか、そんなに言葉に詰まるほど」 「あ、そんなことは……(俺めちゃんこ愛されてます、言葉に詰まるほど)」  心の中の副音声はさておき、「え・あ」という相槌だけで第一王子はすっかり騙されておりますね、リリアンの顔面偏差値のお陰だよ。はかなげが似合うったらありゃしない。 「リリアン、よく聞いてくれ」 「は、はい」 「私が渡した手鏡、覚えているか?」 「はい。お部屋に大事に飾らせていただいております……」  まさかの敵から飛び込んできましたよぉ!? 「あれは実は王家の大事なものなんだ」 「え!」 「アレをリリアンにあげたのには訳がある」 「……」  はい、試合終了、もうオッケー!  これで証拠音声バッチシですね。リリアンが何も誘導しないままにこいつがペラペラしゃべりました。  俺は刑事の才能もあったらしい、お前がやったんだなってライトを当てなくても、「え・あ・はい」の言葉だけで、容疑者は吐きました! 警察特製の泣き落としかつ丼もいらない世界観!  さてと、俺は早く愛しのガリアードの元に行かなくちゃ。 「殿下、そんなものとは知らずに……すぐにお返しいたします! 王家の品をいただいたなんて、父や夫に知られたら僕が怒られてしまいます。知らなかったとはいえ、殿下から物をいただくこと自体が無知でした。申し訳ありません、辺境からすぐに運ばせます!」 「いや、リリアン落ち着いて」  嫌です、もうここから去りたい。俺仕事終わったの、わかる? 社畜は無駄に会社にいないのよ、やることがあるからいるだけで、無駄に残業する事こそ職務怠慢だからね。ハイ、就業時間終わり! ね、終了。  俺は席を立った。 「申し訳ありません、僕はこれ以上殿下とお話するわけにはいきません。夫に、二人で話しているところを見られたら大変なので」 「大丈夫、リリアン。辺境伯は他の人と楽しそうに話をしていて、妻のあなたには目も向けなかったから」  第一王子は俺の腕を掴んで、強引に座らせた。というかお前の視力大丈夫か!? ガリアード、がっつり俺たちのことを見ていたよ。それは恐ろしい目で、今から暗殺できます! てな感じの目だったよ、あれは。物語が綺麗に終わる前に、お前暗殺されるぞ、もう離せ、俺まで貰い事故になる可能性も出てくるじゃねぇか! 俺の死亡フラグを引き戻さないでくれ。 「リリアン、聞きなさい。あの鏡はその場に見えているものを映し出すんだ」 「え? どういう意味ですか? 鏡だから見たらそのまま映りますけど?」  可愛いリリアンの顔がね! てへっ。 「王家のとある部屋の大きな鏡と繋がっていて、あの手鏡が見る景色はそのまま対の鏡に映される」 「えっ、じゃあ、辺境伯のお屋敷の僕の部屋が!?」 「ああ、見えていた。君が初夜の日にどんな目にあったかも。酷い扱いだった、今まで怖かったね」  俺はめちゃくちゃ驚いた顔をした。心の中ではヨッシャーって叫んだよ。この言葉も取れているんだよ、言質頂戴いたしましたぁー。    俺は第二王子に言われた以上の仕事をこなした達成感でいっぱいだった。仕事って結果が出ると、めっちゃ嬉しいんだよね。そこまでの過程は救われないことがあっても、この結果のために頑張れる。あぁ、おれ、ついにやったぞ。とったどぉぉぉー。 「最近は部屋にいないけど、どこで寝ているの?」  はい、気持ち悪い質問きましたぁー、ふつう覗いているよって宣言されたらさ、キモって思われるのが一般的ですよね。王子は俺に見られて安心だろ? みたいな感じになるわけ? 王子スキルすげぇ、ポジティブ。  でもそこはリリアン、無垢な子だからそんなはしたない脳内じゃないと思っているんだろう、演じてあげるよ、この社畜様が! 「僕はずっと旦那様のお部屋で過ごしております(閨の時間だけね!)」 「ずっと? そこに軟禁されているという話は本当だったのか」  おお、軟禁情報もきちんと入手しておりましたか! お目が高い。 「……(リック、ジュリ、よくやった! 君たちの寸劇も救われたよ)」 「可愛そうに、君からは何も言えないんだね」  そうね、それ事実じゃないからね、録音されてるし変なことは言えないの、社畜は上司に忠実ですからね! 「あ、その、僕は嫁いだ身なので、辺境伯領でのことは……」 「君の部屋で、侍従カップルが毎日、卑猥な行為をしているのは知っている?」 「卑猥……ですか? 僕は部屋には初夜以来、戻っていないので何のことかわかりませんが……」  きたよきたよ、ヤン、リック、君たちのAV生配信の証言も取れるぞ! というかお前ら毎日していたの? 新事実に俺、驚きだよ。 「君の可愛い下着を履いて、侍従の男の子が騎士と君のベッドを汚しているよ」 「え!?」  俺の可愛い下着、いただきましたぁ、セクハラ発言だよね! 「背徳感がたまらないと言っていた。君の下着をつけて君のベッドで、従者が交わるんだ。これは公爵令息だった君をバカにしている。君は辺境伯領では従者にも受け入れられていないんだね。公爵家がつけた侍女だけが君の味方みたいだった」 「あ、ジュリですか? 彼女は僕の姉のような存在なので肉親のように僕を優しく包んでくれるんです。ジュリのお陰であの家で不自由なく暮らしています」  うん、嘘は言っていない。ジュリは肉親みたいな存在、彼女は俺がガリアードに抱かれるために、マッサージをして整えてくれるから、俺もガリアードもも感謝している。あの家で不自由なく、ガリアードに抱かれる体を整えられている。ジュリのお陰でね! これガリアードも知る真実ね!  リリアンの顔面偏差値と出来る社畜のあざとさのタッグにより、簡単に第一王子が堕ちてしまった。もうこれ以上吐かなくていいよ、ネタはばっちりリリアンのブローチという魔道具の中に納まりましたからね! パパラッチも驚きの盗聴術。  どうしよう、こんなに順調にイク夜会でいいの? カンペがなくても華麗に仕事をこなしてしまった自分のスキルが怖い。待っていろよ、エンディング! 悪を倒して、愛され溺愛エンド確定の予感しかないぞ。
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