1 物語のはじまり

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1 物語のはじまり

 日本で流行ったアニメがあった。壮大なストーリーの割には、内容はいたってよくある二人の王子の王位継承権争い。  王が病に伏せて半年。  次の王には正妃の息子である第一王子に決まりだろうと言われる中、王の知らぬところで悪政は続いていた。このまま進めば国が傾くと憂いた異母兄弟である第二王子が立ちはだかり、兄を打ち破り国王になりあがる物語。  よくある話だった。  そしてこれまたよくある裏ストーリー、影で犠牲になった多数いる中でも、特段早い段階で消える儚い男がいた。それが物語のキーになる、大事な死。よくある話でしょ?  物語の始まりは、主人公ではない。  主人公である第二王子が仲間と共に立ち上がるきっかけの話としてだけの、可哀想な人物である宰相の息子が嫁に行くところから始まる。  なぜ息子が嫁? この世界は同性婚もできるからだ。もし子供が欲しいなら第二夫人に女を娶ればいいだけのこと。  そして宰相の息子、リリアンが最初の登場人物だった。  相手は辺境伯であるガリアード・オスニアン。年齢は二十六歳と若いながらも、辺境を治めていた実力ある若き英雄だった。先の戦で敵を蹴散らし、国を守った武に長けた男であったが、それが第一王子には許せなかった。人気もあり、なおかつ妾胎の第二王子の友人でもある男が、いつ自分に刃を向けるかわからない、そんな不安もあった。  そんな中、国を救った英雄である辺境伯の婚約者には、もっとも高貴な身分、宰相の次男がどうだろうと、臣下は陛下に打診した。  そして英雄への褒美として、王命で二人の結婚が決められたのだった。  公爵家次男のリリアン。それは、それは見目のいい、可愛らしい男であった。同性婚が認められているこの国では、男性からのリリアン人気は強い。  そうして宰相の息子リリアンという可愛い男の子は、辺境伯に嫁ぐことになった。宰相の地位にあるワインバーグ公爵家は、王位継承権争いに関しては中立の立場。そんな家のリリアンがガリアードを陥れるのは難しいが、リリアンを騙してガリアードの弱みを握る駒にするのは簡単だと思った第一王子は、この結婚を、いや、リリアンを使った。  リリアンは第一王子サイドの策略により、ガリアードを深く恐れた。そして婚前にリリアンが第一王子と繋がっているという情報を入手していたガリアードも、リリアンを警戒した。誤解をしたまま王命により完全なる政略結婚がなされた。  初夜を迎えた日から、ガリアードはリリアンを離さなかった。  リリアンの家が辺境伯を陥れるという情報を聞かされていたガリアードは、リリアンを凌辱した。リリアンの持ち物から、第一王子と繋がるものを発見した時、第一王子と宰相が絡んでいると思ったガリアードは、リリアンの実家を攻めることを決意。それを聞いたリリアンは心も体もボロボロになるも、そんなリリアンを溺愛する兄が助けに来た。その時リリアンはガリアードをかばい兄に刺された。  今までのことを仕組んだ、両家を憎しみに追いやった第一王子を打ち破ってくださいと言い、この世を去った。  ガリアードはリリアンを愛していた。リリアンもまたガリアードを愛していた。最後の時を見て兄はそれを深く理解し、中立という立場を失くし、ガリアードとともに第二王子に尽くすことを決意し、第一王子を打ち取った。  リリアンの死後、リリアンの潔白は証明された。そしてガリアードは生涯独身を貫き通した。  リリアンとガリアードの回はいつも悲しい曲が流れていた、初めのきっかけに過ぎないモブのリリアンを視聴者は深く愛した。  まさかのそのリリアンに入った俺っ!?
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