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10 パパ登場
「リリアン、準備は済んだか?」
「お父様!」
そこには結婚式のために駆けつけたリリアンの父がいた。リリアンは可愛がられていたので父親はこの結婚に反対だったが、王命なので拒むことができず、泣く泣くリリアンを嫁にやった。
「ここに来てまだ一日だが、辛くないか?」
「はい、来てくださりありがとうございます」
リリアンはそう言って、父親に抱きついた。
「すまない、こんな辺境の地までお前を嫁がせることになってしまって」
「お父様……」
「いつか必ず、こんな場所から戻してやるからな」
これ、第一王子聞いているよね? 今、笑っているんじゃねぇのか? どう答えていいのかわからず、とりあえず盗聴されない場所に行く必要があった。
「お父様、緊張して気持ち悪くなってきました。バスルームまで支えていただけますか?」
「あ、ああ。それはいけない。父が抱っこしよう」
うわぉ、まさかの父親にお姫様抱っこ。リリアンの父だけあって、めちゃくちゃカッコいい。渋いイケオジだった。軽々息子を抱えるお父様も素敵だった。
うっとりしていると、大きなバスルームに到着した。
「リリアン、吐くなら父が背中をさすってあげよう」
「違うんです、お父様。実はあの部屋には魔道具があるかもしれません。危険かもしれないのでこちらに一緒にきていただきました」
「なんだと! オスニアンがそんなものを!?」
おっと、基本的な間違いを犯してしまった。上司に叱られる案件だ! 主語が抜けたという初歩的なミス。この世界に来て初めてのミスはケアレスミスだった。しっかり! 俺。
「違います! まずはこのバスルームに 遮音の魔法をお願いしてもいいですか?」
「ここでの会話は誰にも聞かせられないということだね、わかった」
この世界、魔法があるんですよぉ!
リリアンは少ないながらも治癒の魔法を使える。だからこそ凌辱されても、耐えてこられたのだった。ヤられる、自分で治す、またヤられる、治す、でも心はズタボロ。そういう流れでした。治せるけど、無理やりされれば痛いのは当たり前。
治るけど、痛いんだからね。ここ重要。
そしてリリアンのパパは宰相! 秘密な話をする現場も多いからピッタリな魔法を使えるんだ。 遮音、音を漏らさない魔法。ガリアードは騎士なので魔法は使わず体力勝負の剣一筋。
皆が皆、魔法を使えるわけではない。まぁ特に必要ない場合の方が多い。ご都合主義ファンタジーアニメですからね、リリアンの治癒魔法は物語の性質上必要性があっただけ。だって凌辱されて弱って死んじゃったらお話を繋げられないでしょ? あっ、でもアニメ本編一話目で死んじゃうんだけどね!
一話といっても、ガリアードがどうして第一王子討伐に参加したのかという話につなげるためだけに、ガリアードとリリアンの新婚凌辱生活を、十八禁に触れない程度に軽くハイライトでお知らせという、それだけの要因リリアン。まぁスピンオフでは主役級に登場したけど、ほぼ凌辱シーンですから。
「ガリアード様ではなくて、第一王子にいただいた手鏡がそうかもしれません」
「第一王子? 手鏡……」
リリアンが魔道具かもしれないと思った経緯を、こう説明した。
リリアンに使われるはずの媚薬ジェルの話をした。そして第一王子の派遣した医師が起こした犯行なので、第一王子にリリアンは恨まれているのではとガリアードが言ったことで不安になり、第一王子に貰った手鏡が怪しいと伝えた。今思うと、個人的に親しくもない公爵令息に、このような豪華なプレゼントはあり得ない話だと思うと意見を言ってみた。
「そうか、父である私に何の断りもなく、嫁に行く息子にそんなモノを贈るなど、ありえない。辺境伯に見つかったら愛人と間違われるかもしれないというのに、そのような贈り物は本来ならいただいてはいけないモノなのだよ、なぜその時、父に言わなかったんだ?」
「ごめんなさい、旅立つ準備で忙しくて……」
「第一王子とはもちろん何も無いのだろう?」
「ありません! 結婚のご報告にお父様と一緒に、陛下にお会いしに行った時に、少し個人的に第一王子とお話しただけです」
少しの間、イケオジのリリアン父は考えていた。
「手鏡の魔道具は、王家の秘宝で一つ有名なものがある」
イケオジこと、リリアン父は語った。
宰相だから知る王家の秘宝。有名な魔術師が王家へ献上したもので、どんなに離れた場所にあろうとも、鏡に映ったモノとその場所の音を鮮明に、王家の秘密の間に中継することができるのだった。
なんじゃーい! それはあの秘密のポケットを持った大型にゃんにゃんバリな、便利グッズじゃないか。
恋人に贈るという定番の手鏡……この世界ではそういう設定らしい。もちろんリリアンは恋人がいたことないからそんなこと知らなかったし、俺もそこまでの詳細設定までは把握していなかった。
嫁に行く子に贈る理由は何一つ見つからないから、第一王子の愛人を匂わしたのか、もしくは魔道具を密かにオスニアン家に置き、弱みを見つけようとしているのかもしれないと父は言った。
リリアンを通じて辺境伯の弱みを見つける。第二王子とガリアードは親友だから、ガリアードに何かあれば第二王子も疑われる。そこで第二王子排除のチャンスを伺っているのだろう、第一王子の考えそうなことだ。そう言い切った。
さすが宰相。
手鏡という一つの品物から、大正解へと導いてしまった。名探偵顔負けの推理劇! 頼るはイケオジパパだ! こんな上司なら社畜人生も捨てたもんじゃないな、俺はさしずめオスニアン家への出向中だ、出向先のガリアードを攻略しつつも、直属の上司であるパパリンの意見に従う。
日本の企業が懐かしい。こんなスムーズな仕事運びはめったにない。パパという名のいい上司に恵まれた。
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