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11 作戦会議
先程から狭いバスルームで父と二人きり、神妙な顔で向き合っている。そこへ心配になったジュリが控えめにノックをしてきた。父が遮音の魔法を一時解いた。
「入りたまえ」
「失礼致します。旦那様、薬湯をお持ちしました。リリアン様は大丈夫ですか?」
「ああ、ジュリありがとう、リリアンは平気だ」
ジュリがバスルームに入ってドアが閉まると、父はまた遮音の魔法をかけた。ジュリが不思議な顔で見ていた。
「実は重要な話があって、遮音をかける必要があった、お前にも聞いてもらいたいことがある」
「は、はい!」
そして今度はジュリも参加した会議が始まる。ここ、バスルームですけどね? でもさすが辺境伯妻の部屋、バスルームはかなり大きいので不便は無い。
父がジュリに魔道具のことを説明すると、ジュリは納得した。
「さすがに、手鏡は無いなと思ったんです。たぶんリリアン様はそういう恋人同士のことに疎いので、ただ単に貰ったものを受け取っただけだとは思ったのですが、後で旦那様にお伝えしようと思っておりました。報告が遅くなり申し訳ございません」
「いや、ジュリのせいじゃないよ。リリアンをそういうことに疎く育ててしまった私の責任だ。まさかそこに付け込まれるとは思ってもいなかったが」
なるほど、ジュリが朝、手鏡をみて不審な顔をしたのはそういうことだったのか。
「今は王宮内でもごく身近の者しか知らされていないが、陛下は病に侵されている」
「「ええ!?」」
ナイスジュリ! リリアンとあうんの呼吸で驚く。というかいくら宰相でも、王家のことは外でばらしたらイケナイことだ。それを一介の侍女であるジュリにも軽く言ったことに、ジュリは驚いたようだ。そして父は話を続けた。
「本来ならもう少しお前の側についていてやりたいのだが、式が終わったらすぐに王宮に戻らなければならない。宰相として王の補佐が山ほどあるんだ」
俺はその裏事情を知っていたが、リリアン的には知らなかった。だからアニメのリリアンは日帰りで帰ってしまった父に泣いて縋った。父も宰相の仕事を放り出すわけにはいかなかったので、泣く泣く王都へ戻った。
リリアンは不安の中、ガリアードとの初夜を迎えたのだった。と、回想シーンを頭の中で繰り広げていると、父がリリアンに声をかけた。
「リリアン、大丈夫か?」
「あっ、はい。お忙しいのに、僕のためにお時間作っていただきありがとうございます」
「愛する息子のためだ、当たり前だろう?」
そして父が言うには、陛下は第一王子の悪政を少なからず知っているが、第一王子の母である王妃の家の力が強く、第一王子になびく貴族が多い。
第二王子は慕われているが、母親の身分は王妃よりも低く第二王子派の貴族だけでは太刀打ちできない。
リリアンの実家である公爵家は中立だが、うちが味方に付いたらきっと一気に風向きは変わる。そう説明された。
「それで第一王子は、リリアンを使おうと何か考えられているのだろう」
「そんなことが……」
知っていたけどな、驚いたふりも大事なお仕事です。ジュリも遮音をかけなければいけない内容だと悟り、静かに話を聞いていた。
そして父が推測したことを、リリアンとジュリに話し始めた。内容は、凌辱はさすがに思いつかなかったのだろうけど、だいたいいい線をいっていた。
考えられる推測は、二つあると言った。
一つ目は、リリアンに初めからガリアードを裏切らせる。それはあの時の医者が媚薬を使い、リリアンを犯して手垢がついた状態で嫁にいくということ。しかも自分から求めるような媚薬なら、リリアンが結婚前に違う男を誘ったということになる。それを知っても王命だからガリアードからはこの結婚を破棄できない。
公爵家次男がそんなふしだらなことをするのは、かなりのタブーらしい。
怒ったガリアードは、リリアンを罵る。結婚後リリアンは相手にされず、辺境伯に閉じ込められるだけの存在になる……パパの想像は清いね、本当の話は、怒ったガリアードが凌辱夫になったんだけどね!
それはさておき、パパの想像のお話の続きは。
パパは手鏡により、二人の不仲を第一王子から知らされる。リリアン可愛がりすぎる公爵家は、リリアンをないがしろにした辺境伯を断罪したい、そこで第一王子が力を貸す、ガリアードを陥れるのに成功する。第一王子は宰相という強い味方を得る、第二王子は貴族の支持を得られず蹴落とされる。という結末だけど、そう上手くはいかなかった。
手鏡の魔道具は、リリアンを相手にしない夫を投影するためで、白い結婚の証拠集めのただの道具。有力だと思ったこの考えは、すでに第一王子の知らぬところで、医者の失態が見つかってしまい終わってしまった。
ここまで、ほぼ当たっている。凄い想像力! 何度も言うが、ガリアードは相手にしない罵るではなくて、相手にして罵る、が正解だけどね。
そうすると二つ目の推測が有力だろうと、父は言った。
それは医者が失敗した場合、根気強く手鏡からの情報を得て、何かガリアードの失態を探す。もしくは、手鏡の存在をガリアードに、第一王子の手のものを使って何気なく知らせる。リリアンは第一王子の愛人をしているという噂をガリアードに聞かせて、リリアンを侮辱する夫を作る。そしてリリアンを助けたい公爵に、自分が王位に就いたら、王命で離婚をさせることができると言い、第一王子派になってもらい第二王子を蹴落とす!
とにかく宰相がどちらかに付けば、もうパワーバランスは崩れて、宰相が味方した方が貴族の支持を得られるらしい。
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