11 作戦会議

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   うわー、さすが宰相!  お話が綺麗にまとまりました。大正解です! パパがいい仕事をしてくれたので、リリアンも仕事モード入ります! まずは涙を流して、それからパパに抱きつく。 「お父様……僕、怖いです。もしかしたら昨日、僕はお医者様に凌辱されていたのかもしれません」 「怖かったな、リリアン!」  パパりんもリリたんを、しかと受け止める。そしてジュリも涙ぐんで、リリアンを見守った。 「僕、まだここに来て一日ですが、ガリアード様をお慕いしてます。彼と離れたくありません!」 「そうか、リリアンは辺境伯を気に入ったのか。政略結婚だったが、それは救いだな。できればリリアンには幸せになってもらいたいんだ。だが、二つ目の手鏡愛人説は今のところ、作れる状況になってくるな」  ジュリがそこで声をかけた。 「でも旦那様、お二人はもうすでに愛を交わされたっ、じゃなかった相思相愛に見えます。もうとってもラブラブなんですよ。愛人をリリアン様が作るとは、ガリアード様も思われないと思います。ねぇ、リリアン様!」  朝の食堂での俺たちのやり取りを、家政婦は見た! といわんばかりにジュリは見ていた。隠れていたけど、俺にはわかった。ジュリがガッツポーズを取ったところまでバッチリ見えちゃったから! 「もう、ジュリ! でもそうですね、ガリアード様が僕を疑うとは思えません。あと第一王子を疑っておられたので愛人という発想にもならないと思います」 「そうか、二人はそんな信頼関係が築けたのか。だとすると、その魔道具は受け取ってしまったし、もしも他の人の目にその魔道具が晒されたら、第一王子は保身のためにリリアンに盗まれたとも言いかねない。あれを他人に渡すこと自体、いくら殿下といえ罪に問われるからな」  父は考える、しわがおでこにできてイケオジ度がアップする。俺はその顔をうっとりと眺めていた。パパがいい答えをくれるかもしれないし、久しぶりに自分で考えなくていいことにホッとしていた。社畜は基本、上司の命令に従うまでだからな! 「でしたら、あえてその魔道具をお部屋に置いたまま、ガリアード様とリリアン様の不仲を見せつけたらいかがですか? それを第一王子が旦那様に提言してきたら、王家の秘宝を勝手に持ち出した理由を聞き出して、私利私欲に使ったという言葉を魔道具で録音して、陛下にチクって第一王子をざまぁしてしまったらいかがですか?」 「「……」」  父と俺、唖然。ジュリってやっぱり優秀なんじゃね? 今日から俺は君のことをスーパー侍女と呼ぼう。  父も第一王子には思うところがあるみたいだけど、パワーバランスを崩すわけにいかないから、第二王子に加担することもできない。それで悩んでいるのは知っていた。  だったら宰相がパワーバランスを崩すのではなくて、勝手に第一王子に失脚してもらうのがいいのではと。さすがに王家の秘宝を、私欲のために公爵家次男にプレゼントしたなど、してはいけないこと。それにまだ陛下が王として君臨している以上、断りもなく王家の物を他人に譲渡するなど、たとえ殿下でも許されない。  というか、なんでざまぁなんて単語知っているの? もしやジュリも転生者じゃ? さりげなく無知なリリアンが探りを入れる。 「ジュリ、ざまぁって何?」 「あら、最近王都で流行っている観劇でよく使われる題材で。捨てられた女がのし上がって、捨てた男よりも幸せになってスッキリする物語です。で、捨てた男は不幸になって、ざまあみやがれ! って」 「へ、へぇー、怖いね」  この異世界でもそんなものが流行っているのですか、ぜひ見てみたい。 「でも僕、ガリアード様に捨てられたくないし、ガリアード様を(おとしい)れたくない」 「そうじゃなくて、第一王子がリリアン様を使おうとしたから、逆にシナリオに乗ったふりして(おとしい)れるんですよ! スッキリするじゃありませんか! だって昨日リリアン様が機転を利かさなければ、あの変態医師と二人きりになって、あの媚薬を使われていたかもしれないんですよ、そんな危険なことをしようとした奴はたとえ王子だろうともお仕置きが必要です!」 「ジュリ、逞しいね」  ジュリは言ってやったといわんばかりに、自信満々に言い切った。ちょっと過激だが、この子がリリアンを大切にしてくれているのはよくわかる。 「ジュリ、それはいい考えかもしれない。誘導して排斥を(うなが)せれば、我が国も平和に第二王子が国を治める世界がくる。陛下は王妃というか王妃の実家に強く言えないから、陛下も忖度(そんたく)せずに決断を下せる材料になるだろう」 「でも。僕ガリアード様と不仲じゃないですよ?」 「私から説明しよう、今のことを踏まえて、この部屋では演技して欲しいと言えばいい。彼も第二王子と親しいから、第二王子を王にする協力はしてくれるだろう?」  なるほど、そういうことか。  うまい具合に、戦いなく平和がきそうだ。でもそれだと第二王子が仲間を得て、勝利し成り上がるみたいなストーリーが崩れてしまうが、いいのだろうか?  最終地点の王になるのが第二王子、ということだけは同じだけど、本編は愛と戦いの物語なのに、戦い方が地味だ。相手が勝手に堕落していって、おこぼれラッキー的な流れで第二王子が王になる。それでいいのかな? 戦ってもいないけど。  物語の強制力とかなければいいんだけどな。  でもこの世界で、一人で旦那を凌辱ルートから外すという仕事をしなくて済みそうだ。やはり仕事ってチームワーク。社畜は会社の一員であって決定権が無いのが、良いところでもある。自由な決定権を得たいのなら、すべての責任を負う覚悟で自分で会社起こせばいい。そんなの嫌だし、何よりそこまでのスキルは無い。俺は守られた環境で精一杯努力をするのが好きなんだ。  だから、社畜だったんだい!
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