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12 父と義理の息子
父とジュリと一緒にバスルームを出ると、そこには心配顔のガリアードがいた。
「リリアン、大丈夫か!? 医者から薬湯をリリアンに処方したと聞いたんだが」
「ガリアード様、ご心配おかけしました。もう大丈夫です」
「そうか、まだ休むといい。急に色々と疲れたのだろう」
めちゃ優しい。父に支えられたリリアンの手を取ってくれた。それを見て父はほほ笑んだ。
「ワインバーグ公爵様、この度はこのような場所までお越しいただきありがとうございます」
「ああ、オスニアン辺境伯、リリアンを、私の息子をよろしく頼むよ。早速だがいくつか話したいことがあるんだ、君の執務室へ案内してくれないか?」
「はい、ではリリアンは少し休んでいるように」
そう言って、二人は部屋を出ていった。
「ジュリ、僕もう大丈夫だから、外の空気吸いたい。お庭でも行こうかな」
「そ、そ、そうでございますねーぇ!」
「ジュリ……」
ジュリは面白い顔になっていた。きっとこの部屋の映像が第一王子に流れていると知って、緊張したのだろう、俺も思いのままで話すことができないから、ジュリと部屋を出た。
庭にお茶とお菓子を用意してもらって、綺麗な庭園の中でジュリと二人ガーデンパーティーをしていた。優雅な気分に浸っていた。
俺こんな時間を持てたこと、ほぼなかったからなぁ。会社員時代は……ってつい先日のことだけどな! 昼飯かっこんで、缶コーヒー片手に公園で一息つくくらいで、カフェなんぞという優雅な場所に行くこともなかった。
こんな素敵なティーカップも初めて触れるし、なによりもお茶がうまい! コーヒー派だったが、これからは断然ティー派だ。
今のこの優雅な時間は、社畜へのご褒美期間でしょうか? 尊い。この時間が尊いぞ!
前世ではおもちゃが対応してくれた俺の性癖を、生身で相手してくれる旦那もいるし……まだ(仮)だけど。美味しいお茶は飲み放題だし、体も洗ってくれちゃう侍女もいる……恥ずかしいんだけどな!。なんだ、この生ぬるい感じ、これで死亡フラグさえなければ、何の心配もなく毎日「きゃっきゃ、うふふ」しながら侍女とお茶をしていられる。
そんな小鳥が鳴く庭園に、しばらくするとガリアードと父が来た。
パパはめちゃイケオジ、リリアンが可愛い系なら、パパは美しい男という感じ。リリアンとお揃いの金髪と、お揃いの青い目。父親は肩まである髪を後ろで縛っている。ちなみにリリアンは背中まである金髪を緩く三つ編みして横に流している。基本的にリリアンは父親似だ。
リリアンパパは、すっと通った鼻、形の良い唇、笑うと少ししわが出来る目じりも最高にイケオジだ。宰相をしているから、強い男というより、かっこいいインテリ系イケオジな感じ。
そして俺の旦那様(仮)は、それはもう逞しい体。大きな背丈に盛り上がる胸筋、腹はきっと割れている。太ももも大きくてリリアン一人くらい片方に軽く乗る。顔はもちろん男前、ザ・オトコ。少し赤い色の入った短めの茶系の髪の毛と茶色い目、大きな口がチャームポイント。あの口でリリアンの体も唇もメロメロだ。
お父様は美形イケオジ、旦那はマッチョイケメン、俺は可愛い華奢男子。これが、あのアニメの世界のままなら、視聴者の方楽しめること間違いなし! 絶対好みのタイプ見つかるってくらい、かぶっていないからね。
そんな二人のいい男を、リリアン目線ではなく、日本男子社畜目線で見ていると、ガリアードが嬉しそうに俺を呼んだ。
「リリアン!」
「へ?」
いきなり父の前で熱い抱擁。俺は直前まで、スーパー侍女のジュリと妄想の世界で「うっふ、きゃっきゃ」していた、そしてぼぉっと俺の旦那(仮)かっこええなぁと見ていたので、すぐに対応できなかった。
社畜、しっかり! ここはまだ男の戦場、相手先企業だ。気を緩めてはいけない。
「全てワインバーグ公爵様から聞いた。リリアン、怖い思いをしたね、私もすぐに第二王子にお知らせして、第一王子のことは何とかしよう」
「ガリアード様……ありがとうございます」
「いや、リリアンは巻き込まれただけだ。それに一日だけとはいえ、リリアンの寝顔を見られて、さらには可愛い寝言を第一王子に聞かれたかと思うと、殺してやりたい」
寝言? とにかく不穏だ。殺すという単語にビビった。そこで父がくくっと笑った。
「まさかガリアード卿は、そこまで我が息子のことを想ってくれていたとは。嬉しいな、リリアンも初日から大事にされているようで良かったね」
「はい! 僕は幸せ者です」
ガリアードご満悦。
「ワインバーグ公爵様、私はこの命に懸けて、リリアンを生涯守ります」
「ありがとう、ガリアード卿。私のことは父と呼んでくれ、君みたいな男に愛する息子を託すのは心強い」
「ありがとうございます!」
なんかいい雰囲気じゃね? ジュリがお茶をいれてくれて、父と息子、その婿と三人で仲良くお茶会だ。
「ところで、先ほどのお話はどうなりました?」
「ああ、ガリアード卿の協力のもと、お前の部屋ではリリアンを罵って不仲を見せつけることにしてもらった。だからほとんどの時間はあの部屋には居ないようにしなさい。第一王子に可愛いリリアンを見せつけるなど、耐えられないからね」
「ぼ、僕、の、罵られるのですか?」
なるほど……でも本気で罵るガリアードの怖さを俺は前世で見ている。それを思い出したらブルっと震えてしまった。
「リリアン演技だよ。君専用にあの部屋は用意させたけど、夫夫なのだから、これからはずっと私の部屋で一緒に過ごそう」
「ガリアード様、一緒に過ごせるの、とても嬉しいです」
罵り演技は絶対上手いと思う。だってガリアードの素は凌辱夫だからね。あくまでも演技で抑えて貰うために、俺のゴマすりは終わることなき戦いだ!
そしてその日、俺とガリアードは結婚した。父は見届けるとすぐに王都に戻った。ついに今夜、初夜が始まる。
さぁ、ガリアード。どう演技してくれるのだ!? というかほんとに演技だけだよね? マジ凌辱なんてしないよね?? どうしてか俺は急激に不安になっていった。
本来なら社畜スキルのお陰で、溺愛初夜の始まりのはずだったのに! なぜ鏡なんかをリリアンに渡しちゃったんだよぉ? 第一王子! それは、リリアンの寝顔もエッチな姿も、全てを見たい第一王子の策略だからです!
本当ならリリアンを嫁にしたかったのは第一王子だった。子供を産めない男は王家に嫁ぐ場合、側室と決まっている。だがリリアンは公爵家の人間、さすがに側室にしていいレベルではないので、第一王子は泣く泣く諦めた。
でも、リリアンのエッチな姿は見たい! そんな願望から王家の秘宝をこっそり持ち出したのだった。そして大画面でリリアンとガリアードのエッチを鑑賞するという鬼畜行為をしていたエロ殿下、これは十八禁アニメの方に出てきた情報だ。
そして俺はガリアードが部屋を訪ねてくるのを、侍女のジュリとドキドキしながら待っていた。ついに始まる! 第一の試練!? 凌辱初夜! 違った、凌辱されない初夜……じゃない? 凌辱を装った初夜? タイトルは一体どうしてくれようか。とにかくリリアンが処女を散らすのは間違いない。
元社畜、ついにSM通いの成果を見せる時がやってきました。
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