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14 閑話 ~ジュリの腐心~侍女視点
「いやぁぁぁー。リリアン様ぁー」
「うるさいぞ、ワインバーグの侍女の分際で」
確かにうるさい、でも仕方ないです。オスニアン家の家令からは、そういうご指示をいただいておりますので。
「ジュリ、助けて」
「ガリアード様ぁ、どうかリリアン様を解放してください」
「だめだ、まだ初夜の続きが残っている。この後は俺の部屋で行う。リリアンのはしたない液体で汚れたこの部屋の片づけをしっかりしておくように」
声だけだと、いやらしいことをしたガリアード様と、いやらしいことをされたお嬢様ことリリアン様。ですが、二人は笑顔ですのでそんな事実はございませんでした。それにしてもお二人、凄い演技力だわ、いや、朗読力? 言葉と表情が違い過ぎます。
私と護衛騎士のヤンは、お二人のお部屋の前で待機しておりました。侍女ですから、ベッドの清掃要員です。そしてヤンは一応、無防備な状態のガリアード様を守る騎士。
それはもう、二人で気まずい時間を過ごしましたよ。
だって、部屋の外までしっかりとリリアン様の悲鳴が聞こえてきましたからね。それなのに、二人はそんな笑顔、はぁ良かった。言葉通りの場面になっていなくて。
「ガリアード様、せめてリリアン様の中から、その汚い欲望を抜いてくださいませ」
「きたな……、だめだ、リリアンのココは俺を欲しがって離さないからな。お前がしっかりと繋がっている部分を確認するんだ」
繋がっていませんけど? そしてジュリまでアドリブ! 俺の旦那のナニを汚いだなんて……。たしかにグロくて大きいけどさ、汚くはないよ。これから俺の尻に入るんだからな。
「お二人の繋がりは確認いたしました。もうよろしいでしょう、リリアン様をお返しください」
「ガリアード様! お尻が苦しいです、お願いですからもう抜いてください! ジュリ、助けてっ」
「リリアン様!」
そしてヤンがセリフを言う。
「ガリアード様、ご移動はお早めに。奥様の太ももから血も愛液も垂れてきております。このままではオスニアン家の神聖な床が汚れてしまいます」
「ああ、そうだな。後始末を頼む」
神聖な床ってなによ? このシナリオのセリフ所々おかしくない? ヤンがガリアード様に話した「愛液、血」それはもう処女を散らした証拠を第三者が確認したという言葉だった。
この声はきっとあの手鏡まで届いている。ドアを開けた瞬間、まずは大きな声でそれを言う約束だったから。
ご自分の全てのパートをやり遂げたガリアード様は、ヤンと私に目配せをしてから、大きな足音をわざと出して、リリアン様を抱っこしたままこちらを去りました。
ああ、あんなにイチャコラして! でもリリアン様が嬉しそうでジュリは安心しました。公爵家を出る時から倒れるんじゃないかってくらい、青い顔をして震えていたのに、ガリアード様に会った瞬間から、人が変わったようだった。
一目惚れってあるのね、驚きだわ。
あんなに自信に満ちているリリアン様を初めて見た。ここにきてからずっといい笑顔で過ごされている。人って愛に触れると人格まで変わってしまうのね。前の儚くて可愛いしかないリリアン様も素敵だったけれど、今の方が人間味溢れて私は好きだな、魅力がさらに上がってしまったわ。
はぁ、王都から離れて良かった。こんなリリアン様を見たら男なら襲いたくなるに違いない! でも、もうご結婚もされたし、旦那様があの溺愛男なら他の男に触れる機会もないでしょうから、ジュリは安心いたしております。
そうなのよね、溺愛男……ガリアード様もリリアン様を一目見た時から気に入っておられて、まぁ当然ですけどね“王国の花“が目の前にいて、惚れない殿方がいたら逆にビックリだもの。
とにかくお二人が幸せそうで良かった。
去り際のリリアン様はうっとりしたお顔でガリアード様を見つめていたし、ガリアード様もリリアン様に愛おしい目を向けていた。この部屋で凌辱があったなど、二人を見たなら絶対に思わない。そう……見ていたら、だけどね! 聞いていただけなら、それはもう立派な犯罪行為でした。
ヤンとドアの前で待機している時に、私は途中何度も助けに行こうとして、ヤンにあわてて止められました。それほどに酷い状況でしたわ、声だけだとね。ヤンはちょっと興奮していて、早く妻を抱きてーって言っておりましたわ。ふふ、下品ね。でもわかるわ、聞いているだけなら、なんともいやらしいシーンが想像できるくらいに、お二人の演技は最高でした。
演技よね? あれがガリアード様の本質だったら、私のお嬢様はこれから大変な目に合うんじゃ!?
でもリリアン様もノリノリだったし大丈夫かな。もしかしたらリリアン様は責められて興奮するタイプかもしれない。
あの夫夫は需要と供給がうまくいっている例だわ。それにしてもガリアード様の腕の太さ。リリアン様を軽く抱き上げて、リリアン様の華奢な体がより一層美しく見える、最高の旦那じゃない!? なんだか私、違う性癖が目覚めそうだわ、きゃっ。
「ジュリ、片付けるぞ」
「あっ、はい!」
ああ、妄想終わり! 私たちはお仕事をしなければいけないので、紙をとりだしてそれを読みはじめた。
「ああー。こんなに酷い状況だったなんて!」
「これは……酷いな。俺でも妻にここまでやらないわ」
「ベッドに、こんな量を出すなんて、それにこれはリリアン様の血……」
「男同士だからな、勢いに任せて抱けばそうなる。奥様の尻が切れたんだろう、ガリアード様も酷い抱き方をする」
血はどこにもありません。ですが精液らしき跡は、それはもうべったりと。仕方ないから普通にいつもの仕事、お掃除を開始している間も、ヤンは椅子に座ってくつろいでおります。いくら鏡がしまってあって見えてないからって……騎士、使えねぇな。
一人いそいそと片付けながらも、ヤンはダルそうにセリフを吐き出します。
「リリアン様も酷いよな、前の医者のチェックで処女じゃないって診断されたらしいよ」
「えっそんなはずは」
「医者がそういうんだから、間違いないだろう」
「そんな……リリアン様がそんなことするはずないですわ。きっと何かの間違いです」
実は仕事の早いガリアード様は、旦那様……公爵様との打ち合わせ後すぐに、あの医者の尋問を始めました。それでわかったことは、第一王子の指示で処女じゃないと報告をしろと言われたとか。何のためにって、ガリアード様がリリアン様に不信感を持つためだそうです。公爵様の予想通りな展開ね! それにしても、第一王子からの御使いのくせにペラペラしゃべるとは、なんとも情けない男だったわ。
それと、あの媚薬は医者が勝手に使って、あわよくばリリアン様とそれで楽しもうとしたみたい。ゲスっているのね。あの医者は証拠として生かしておくらしいわ。とにかくリリアン様が清いままで良かった!
よし! 手際のいい私は、ベッドメイキングも終わって窓を開けて換気を始めた。
「これからリリアン様はきっともっと酷い状況になるぞ、あんなに泣いていたってことは、ガリアード様は体だけは気に入ったってことだろう」
「そんな! リリアン様は公爵家の出なのに、そんな扱いなんてっ」
短時間で私の演技力が抜群にあがりました。第一王子に私の姿が見えてないからか緊張感はなくなって、今はのびのびとヤンと朗読劇のお時間です。
「ジュリ、そろそろ掃除すんだか? ガリアード様の部屋でもシテいるだろうから、そこを掃除したら、またこの部屋を使うかもしれない。明日も掃除大変だぞ、さぁ今度はあちらの部屋の前で待機だ、行くぞ」
「……はい」
そう言って、二人でドアをしっかりと閉じてこの部屋を出た。
ああ、今頃お二人はラブラブの最中なのでしょうか。リリアン様の初夜、尊い! さすがにもう声を聞くなと言われているので、ヤンが言ったように、ガリアード様の部屋の前で待機はしない。あとはリリアン様が疲れ切って初夜が終わるのを待つだけですわ。
リリアン様の愛され過ぎた体を、しっかりマッサージしなければいけないわ! そう思って、今日もオイルの調合を頑張るジュリでした。
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