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19 転生者?
第二王子が話す内容はちょっと興味深かった。まず第二王子は、貴族が人身売買をしているという情報を入手し、秘密裏に捜査をしていた。その時、同じようにそれを阻止しようとしていた姉弟に出会った、それが後に第二王子と結婚することになった女性だ。
その女性は自分の弟が毒親に売られそうになったところを、売られる前に二人でその販売元を突き止めて、悪の組織を潰してやろうということになったらしい。さすがヒロイン、逞しい。
たった二人で貴族の屋敷に潜入した。そこで潜入捜査をしていた殿下と出会う、見事壊滅! ここアニメで相当盛り上がるところだけど、俺っちの話には関係ないし、殿下もガリアードに話す内容を端折っていたから、詳細は飛ばしまーす!
ちなみに弟は殿下の護衛騎士と恋に落ちてそちらもゴールイン。そこで人身売買は第一王子派の貴族が率先して行っていたという情報を得た、これを使って第一王子を陥れることができるとガリアードに言いにきたところだった。
初夜翌日に……。空気読もうね、第二王子。
「じゃあ、殿下の恋人の弟さんは、売られずに今はその騎士様と一緒になれたのですか?」
「ああ、そうだ。とても可愛い子だぞ。リリアンが花ならあの子は野草かな。純朴な男の子だ。あれは売られていたらただじゃすまなかっただろう。助けられて良かった」
「それは……良かったです」
おかしい、おかしいぞ。野草って言葉もおかしい、褒めているの? けなしているの? それはさておき。
すっかり忘れていたくらいどうでもいい情報だったが、本気で今思い出した。
確か俺の情報なら、その弟は本編始まる前に売られて死んでいた。それで姉が、自分はもう後妻として親に売られるのが決まっていたから、だったらその前に全ての復讐を済ませて身を投げようと誓った。組織を潰してやると復讐に燃えて一人で捜査をする中、第二王子と出会って、第二王子はやんちゃなヒロインに恋をする。第二王子と出会うきっかけとしての死が、その弟の役割で、姉を奮い立たせるためだけに本編にも出てこない弟だったはず、それが殿下の護衛騎士と恋仲に?
リリアンと同じ要因……復讐心を燃え上がらせるためだけに死ぬモブ、それがヒロインの弟。
「俺の彼女の家は、親がとても最悪で、そこから二人を救い出した。彼女とは全てが片付いたら結婚する。弟もその家から抜けさせて俺の護衛騎士の家に入れた。今ちょうどあの子は結婚準備中で、凄いラブラブだぞ」
「……それは、素敵ですね」
どういうことだ、生きている、そしてそこでもBLが始まっている。
もしや、もしや、その弟も転生者!? 生き残るために頑張った同志がそこにいるのではないか!? リリアンよりすごい、本編にも登場しない思い出の弟というモブ中のモブに転生!? めちゃくちゃ情報がない中、頑張った男がいるんだ! すげぇ! 俺は興奮してガリアードの手を思わずぎゅっと握っていた。
「リリアン? 怖い話だったな、リリアンの知らない世界ではそういう人身売買などもある。だからリリアンは私の側を離れてはいけないよ、野草でそういう目にあうなら、花であるリリアンは、あっという間に散らされてしまう」
「……」
その花を散らしたのは、あなたでしたけどね。
「可愛いリリアン。声もでないくらい怯えてしまうなんて。殿下、リリアンは純粋培養です。あまり市井の話を聞かせないでいただきたい」
「あっ、ごめんなさい。大丈夫です。僕の知らない世界のことを聞いて驚いただけで。僕は幸せですね、怖い思いもせずに、こんな素敵な旦那様のところに嫁いでこられるなんて、ガリアード様、好きです」
「リリアン、私もあなたを愛している」
ガリアードがキスをしてきた。それを俺も受け取る。そうだよ、俺はリリアンの物語を頑張らなくては、その子も必死に死亡フラグを回避して、騎士と結ばれたんだ。俺だって、この屈強な男ともっとエッチなことをして、体も満たされたい! 死亡フラグも完璧に拭い去りたい!
「ごほんっ、お前ら不敬だな、俺の前でイチャコラしやがって。二人が相思相愛なのはわかったから、もうその辺にしておけ、リリアン慣れてないんだろ、息きれてるぞ。ははっ、マジでガリアード誰って感じだ、おもしれぇな! 屈強な男がこんな甘ちゃんになるなんて、王都でそんな姿見せたら、ドン引きされるぞ」
「誰にどう思われようと関係ありません。ああ、リリアン、そんな赤い顔して息まで切らせて。可愛いな、クソっ。殿下はもうお帰り下さい、私たちはまだ一度しか契りを交わしていないのですから、あなたが邪魔さえしなければ今頃リリアンともっと、」
「……ガリアード様」
さすがに恥ずかしい。契りを一度交わしたって、人前で言葉にされた、なんか恥ずかしい。しかも回数言われた。一回ってどういう風にとる? 少ない? リリアンの体力ないって思われる? それともガリアードは一回でいいくらいリリアンはそういうエロ要素じゃないって思った? 溺愛しすぎて一回で我慢してくれたと捉えるかな。
正面切って人前で溺愛されるのはさすがに恥ずかしい、とにかく色々恥ずかしい。キスシーンも見られた、恥ずかしい。恥ずかしいしか出てこない。
でもガリアード良いこと言うな! 第二王子さえ現れなければ、まだ続きをしてくれた可能性もあった? もぅ、不安にさせるなよ。ヤリたいんじゃないか、俺と同じだな! やっぱりお前は俺と同じ社畜仲間同志認定だ!
「まあ待てよ、二人が熱いのはわかった。もう退散するから、とにかく兄上を王家から追放するくらいの材料にはまだ足りない。だからお前のその情報が今度は頼りだ! ワインバーグ家がこっちの味方になってくれるかもしれないんだろ?」
「そうですね。リリアンの父君は、リリアンの純粋さを利用した第一王子を許せないとご立腹でした。溺愛する息子が陥れられそうになったのですから、必ずや報復すると言っておりました。殿下に協力するとも」
「ありがてぇな。公爵は何考えているかわからなかったが、息子を溺愛しているってのだけは有名だからな、兄上はそこを使ったのか、相変わらず思考がゲスいわ」
ガリアードはガリアードで、リリアンが第一王子から手鏡を渡されたと殿下に伝えたそうだ。それは王家の秘宝ではないかとワインバーグ公爵が懸念して、リリアンは純粋ゆえにそれを内容も知らずに、オスニアン家へ持ち込むことになった経緯を話していた。
どうして昨日のことをすぐに殿下が知っているかと言うと、この世界、通信の魔道具があるから。ここ便利なところ。ただ魔道具は相当お高いものなので、上位貴族でも持っている人はそんなにいない、だけど第二王子はガリアードをめちゃ気に入っているので、俺といつでも話せる的な意味で渡されたらしい。あんまり俺の前でガリアードといちゃつかないで欲しい。
とにかく、第二王子はガリアード大好き過ぎて、俺のことも純粋ぶったビッチじゃないかって疑いもあったみたい。武骨な親友が“王国の花”と呼ばれる魔性に惑わされているなら見てられないって、新婚中しかも結婚翌日のラブラブタイムにお邪魔しにきたわけだった。
ガリアードを想ってくれるいい人っていうのはわかったけど、邪魔ですから!
物語が大きく変わった。アニメでは第二王子とリリアンが会うことはなかった。それがこうやって対面している。ガリアードが父に言われたことをすぐに第二王子に知らせて、翌日にはこうやってすぐに行動に起こした。
第二王子はなんとしても第一王子を倒したい、それだけはアニメ本編と変わらない思いだった。それが早く叶うなら、第二王子もすぐにでも決着をつけたいようだった。もしかしたら、この話すぐに終わって、俺は優雅な辺境伯夫人として、侍女と「きゃっきゃ、うふふ」しながらお茶を飲み放題の優雅な生活が始まるんじゃないのか!? そこにリックという男の子も加わり、男根について語る腐生活だってそう遠い夢じゃなくなった。
おお、さらっと新たな夢発見! 社畜は社会適応性に優れた生き物なので、すぐに職場で自分が打ち込める分野を探せるんです。適材適所、これ基本!
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