21 目的は?

1/1
前へ
/64ページ
次へ

21 目的は?

   皆さま、なんのための朗読会なのか、忘れていませんか? そして今は性癖お披露目会でもなんでもなくて、第二王子が早く第一王子を倒したいというための緊急会議でしょ。無駄が多い会議は嫌われるよ。 「あ、あの、そもそも第一王子に性行為を見せる必要ありますか?」 「「えっ!?」」  みんな固まった。えっ、なに、目的本当に忘れていたの?    控えていた執事まではっとした顔をしている。目的はガリアードがリリアンを虐めているという事実であって、無理やり妻を犯しているという事実ではなくてもいいはず。アニメの結果はそこだったけれど、今の段階でそこだけを取り立てなくてもいい題材じゃないか? 大人がこんなに集まっているのだから、的確な意見交換をしようじゃないか! 「その……僕がガリアード様に大事にされていなくて、それを見た第一王子が僕の父に話して、ワインバーグ公爵家を味方につけてガリアード様を一緒に(おとしい)れようとしているっていう、たしか父の予想はそういう考えではありませんでしたっけ?」 「……」  おいおい、黙るなよ。誰かしゃべってくれぇー。俺の簡潔かつ完璧なプレゼン。仕事の目的を共有するべく、みんなにわかりやすく伝えたのに。もう 一声(ひとこえ)? 「殿下と仲のいいオスニアン家を (おとしい)れて、最終的に殿下を打ち破るのが第一王子の目的ではないかと父は申しておりました。そもそも僕とガリアード様の交わりなんて、第一王子の知りたいことに繋がるのでしょうか?」 「繋がるな」 「繋がる」 「繋がるでしょう。むしろ喜びでしかありません!」  驚きの全員即答、そして仲良く同意見!? あっ執事まで頷いている。リリアンの存在意義って!?  あの、華麗なプレゼン定義はそこではなくて、ですね……。 「君の閨の姿は、王国の男なら誰しも見たいだろう。公爵家の花が手おられる姿は、その、男のロマンというかだな……」 「抱いたガリアードが言うなら、間違いない。俺も見たいもん。ただガリアードのイチモツは見たくないから、悩ましいところだけどな」 「……王国の男性は、僕をそんな目で!?」  公爵令息時代からそういう目で、王国の皆様はこの子を見ていたんですか!? リリアンは何も知らない無垢な公爵令息ってだけなのに、アブノーマルな性犯罪の対象だったの? リリアン、もう大丈夫だ、俺が転生してきたからには任せろ。そんなやつらは俺がぎゃふんと言わせてやる、といっても結婚したからもう問題ないだろうけど。  ガリアードに抱きつく。彼は言い始めたご本人ですけど、まぁそこはもう旦那だから良しとしよう。か弱いリリアンを演じれば、リリアンに近づく男をこの男が成敗してくれるだろう! 「リリアン、大丈夫だ。私の妻になった以上、今後そんな不埒な目で見る奴は、目を(えぐ)ってやる」 「ガリアード様!」  怖い、発言怖い、でも頼りがいある旦那様というような態度に嬉しいという目線を送ると、ガリアードは喜んだ。はい、また正解しました! 旦那攻略最高! 「殿下言い過ぎです! そして他人の奥様をそんな目で見ても言葉に出さないでください。リリアン様が怯えます」  いやいや、そんな目で見てもだめでしょ。言葉に出さないのは当たり前すぎて注意されている殿下がやばい人間に見えてきた。俺をそんなエロい目で見るな、それにガリアードのイチモツも絶対見せないからな! それはもう俺のだ。 「リック、ありがとう。僕は自分が周りにどう見られているか知らなかった。無知で生きてきたから少し驚いただけ、大丈夫。僕にはガリアード様という最強の旦那様がいるから!」 「リリアン様、健気でお可愛らしい」 「ああ、リリアンは本当に愛らしい」  俺を褒める回で終わった。 「というわけで、兄上はリリアンの痴態を見る喜びと、ガリアードを(おとしい)れることを同時にしたいのだろう。弟の俺が言うのだから間違いない、そこで昨夜のその朗読劇の結果が上手くいけばすぐにでも公爵が兄上に呼ばれるだろう、もし呼ばれなかったら第二弾をしてもらう」  まとめたよ、殿下勝手にまとめたよ。というわけでって、どういうわけ!? どうしてリリアンの華麗なプレゼンがまた凌辱へと繋がったの? このストーリーはどう足掻いても全てが凌辱に繋がる仕組みなのだろうか。物語の強制力はやはり強し。 「ダメだ! これ以上リリアンの痴態は見せられない」 「でも今のところそれしか方法ないだろう」  そこで頼りになる、現溺愛夫。でも二人はそこから熱く討論を始めていた。仕方ないから、もう口を出さずにお茶を飲んで無の境地に入る俺。  なんだかんだ王子と言えど気さくだし、ガリアードも敬語は使うにしてもたまに外れているし楽しそう、やっぱり仲いいんだな。変態の友達は変態。 「じゃあ、僕が従者として、リリアン様のお部屋を掃除する時、言葉で説明するのはどうですか?」 「リック、その可愛いお口は何を言おうとしてるのかな?」  殿下はリックの唇を手で軽くなぞった、リックは手慣れた手つきで、殿下の手を叩いた。 「殿下、そいうのいいから! だから部屋でリリアン様の侍女と掃除をしながら会話をするんです。リリアン様はガリアード様の部屋から一歩も出してもらえてないとか、ずっと泣かされているとか、いじめられているって話をして、そういう事実があるということを知ってもらいましょう、それならリリアン様があの鏡に映らなくても大丈夫でしょ。いやらしいことを想像されなくても済むし」  リックが元気よく、俺の議題に対して正当な答えをくれた。殿下は相変わらずリックのことをからかっている。大丈夫か? こんな現場ヤンに見られたら地獄だろう。早く終わらせて、本当に帰っていただきたい。 「さすがリック、可愛い答えだ。だが不正解! 兄上はそんな他人の言葉だけでは動かない。確実に本人という証拠がないと。だからこそ昨日の対応は正しかった。直接見てはいないにしても声だけ聴くと、リリアンが凌辱されているのはわかる。そういうネタが欲しいんだよ。真実が欲しいんだ、人に訴えるには誰かの噂話ほど信ぴょう性のないものはない」 「そんな……」  リックはこれならどうだ! と言う感じで言ったことを殿下に優しく手おられた。  うーん。さすが王子なの? ガリアードを見上げた。俺の目を見ると優しく微笑む、かっこいい。早く二人きりになりたい。もうこの場を終わらせたいので、身を切ることにした。だって、十八禁アニメでは凌辱生シーンを見たからこそ、第一王子は行動に起こしていた。だから今回も正解はわかる。  それに無駄な会議こそ意味のないもの。結果は早く出す。時間は有限、これ事実! 「殿下、出過ぎたことを言って申し訳ありませんでした。僕も早く安心したいし、殿下にこそ国を治めていただきたいです。から必要なら頑張ります!」 「いや、リリアン。必要じゃない、リリアンが辛く恥ずかしい思いをする必要などない、やりたくないことを強要してすまなかった」 「ガリアード様! 僕ガリアード様とそういうことする時は、昨夜の二人きりの時のような甘い時間がいいです。大好きなガリアード様に、嘘でも(ののし)られるのは傷つきます。だけど必要ならやらなければいけない時もあるのもわかります」  さりげなく誘導した。これからも凌辱はしないで昨夜のように溺愛バージョンでお願いしますということ。今後も演技は仕方ないからするけど、それ以外では(ののし)っちゃだめ、そういう意味です。 「リリアン! 私も君を(ののし)りたくないよ、辛かったね、よく耐えてくれた」 「だって、昨日はガリアード様がご自分を痛めつけてまで頑張ってくださったから」  そしてもう赤くもない、ガリアードの頬をさすった。ガリアードは俺の手を上から掴んだ。 「君がすぐに癒してくれたから、大丈夫だ。ありがとう」 「いえ、僕にはそのくらいのことしかできませんから」  そこで王子。 「ああ、リリアンは治癒の魔法があるんだっけ?」 「ご存じだったのですか?」 「一応王子やってるからな、貴族の特性くらいは把握している」  優秀らしい、優秀らしいが、チャラ男。 「とりあえずは、仕方ない。あまり公爵家出身のリリアンを低く見られるのも可哀想だ。まずはリックの案を(おこな)おう、昨夜のことが今後公爵の耳に届かなければ、その時はまた朗読劇をするしかないな。まずはリリアンが屋敷で不当に扱われている嘘を、この朗読劇に関わった者すべてがリリアンの部屋で話すんだ。そこから状況が変わらなかった時、二人の凌辱という第二シーズンに入ることにする」  第二シーズン。なんだよ、凌辱第二シーズンって。もうこれは凌辱シリーズの世界観に転生したと認めるしかない。溺愛の世界にどうしたって変えさせないつもりだな、どうあがいても朗読劇でも必ずまた凌辱シーンを演じなくてはいけないのが社畜こと、リリアンの役目なんだな、わかったよ。この世界がそのつもりなら、俺はやりきる! そして花散らす予定の公爵令息は、凌辱シーン付き溺愛夫に嫁ぎましたという内容に変えてやる!  ちなみに十八禁アニメのタイトルは、「凌辱と執着と…絶望」もう怖いでしょ、怖いよね。救いようが無いってタイトルからわかる。バッドエンドしかないだろうこともわかる。見る人をタイトルで選別してくれるという優しさなのでしょうか!?  韓国ドラマだってここまで酷いワード使わないよね? 俺、韓国ドラマ見ないからわからないけど、昔の昼ドラだってダメでしょ、視聴者から怒られるタイトル案件だからな。さすがweb限定にしただけある、好き放題な感じが潔い。  俺ならこの物語を作り変えるなら「凌辱を演じる夫は実は溺愛夫でした、テヘッ」これがいいかもしれない、可愛らしくていいね、うん。そうしよう、それともやはり簡潔に「凌辱夫を溺愛夫に導く方法」とか? 俺ネーミングセンス冴えている!? とにかく俺は物語を必ずや俺のなりたい方向へ導いてやる!  殿下の言葉でしめくくられて終わった会議は、俺の脳内からリリアン主役の怖いアニメを思い出すことになってしまった。しかし俺というやる気に満ちた男は、そんな恐怖に打ち勝つ方法を知っている、脳内変換。物語を俺の手で変えてやるんだ!  おーーーー。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

869人が本棚に入れています
本棚に追加