24 執務室で

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24 執務室で

「んン、もう入らないっ……」 「まだ入るだろう? ほらもう少し、ミルクも飲もう」 「あ、んん、ゴクンっ、ぷはっ、おいしい」 「ああ、可愛い、可愛い私の妻。美味しそうにミルクを飲む姿もたまらない」  紛らわしい会話をしているが、ガリアードは通常運転、そしてここはガリアードの執務室。飲んでいるのはただの飲用ミルク、そして余談だが俺はガリアードのミルクをいまだ飲んだことはない。  仕事中は怖いリチャードがしょっちゅう出入りしていて、書類を山ほどもってくる。普段はガリアードおうち仕事よりもすぐに外に出て、領地の偵察や国境付近の警備など、自ら騎士団を率いて体を使う仕事に出てしまうから、こんなに屋敷にずっといるのは珍しいらしく、仕事をここぞとばかりにふられていた。  ガリアードもいつもなら、もうお外いくーっと剣を持って馬に乗って出てしまうらしいが、リリアンが屋敷にいるから出ていかない。騎士団の人たちも鬼訓練が無くてホッとしているとリチャードは言っていた。たまには騎士たちにもお休みを与えたかったからリリアンがいてくれて、しかも溺愛されてくれて良かったと喜ばれた。  そういうわけで、ここ最近はずっと近くにリリアンを(はべ)らせて仕事をしている。そうするとはかどると言われれば、辺境伯夫人としては夫のモチベーションアップのサポートをするのは当たり前。そして騎士達はリリアンに感謝する、リチャードも仕事をしてくれて助かる、ついでにリックはヤンとの変態プレイのお披露目をひそかに俺の部屋で鏡に向かって楽しんでいる。オスニアン家のみんなは幸せに暮らしている。  実に、ウィンウィンウィーンだった。  ついでに言うと、ジュリも楽しんで仕事をしている一人。閨で疲れたリリアンの体のマッサージに気合を入れている。オイルの調合が楽しくて仕方ないと言っていた。男を知ってどんどん美しくなるリリアンという(あるじ)が自慢だとも。辺境伯領でリリアンがみんなに褒められるたびに、ジュリは鼻が高いと喜んでくれる。ジュリが公爵家にいる時よりも生き生きしているのは嬉しい。ガリアードはジュリなら仕方ないと、俺の体を(さわ)る許可が初夜から数日でおりたので良かった。そうでもしないとリリアンの身体が回復しないから、ガリアードも実はジュリのマッサージの腕に感謝をしていた一人だった。行為後のダルさは魔法じゃ治らないから、交わりはジュリ頼みでもあったわけだ。  リリアンは最近職務怠慢だったから、やばいなと思っていたけれど、ただガリアードに愛されることこそが、みんなが楽しく暮らせる最大の仕事だった。  リリアンは自他ともに、溺愛妻になった!  自分自身で未来を変えるという仕事をさぼりがちだが、動かずとももうそういうルートに入ったらしい! 祝ガッタイ効果。やはり溺愛初夜の力は大きかった、そこから終始ガリアードが優しくて、今のところ初夜前の演技以外では一度も凌辱をされていない。  そして今ガリアードは休憩時間だと言って、リリアンにお菓子を食べさせていた。リリアンは常に休憩モードだけど、ガリアードはリリアンに餌付けをすることこそが休憩らしい、変わった奴だ。そして腹いっぱいケーキを口に運ばれ、最後にミルクまで自分の手を使わずに、ガリアードがカップを口元に器用に持っていき飲ませてくれたところだった。 「ガリアード様、僕の話を聞いていました?」 「なんだっけ、ああそうか。第二王子の話だったか?」 「違いますって、第一王子の話!」 「ああ、そうだった。第一だか第二だか、王子が二人いるのは紛らわしいな、早くあの変態王子、仕事しないか煽ってやるか」 「……」  すいません。我が国に王子は二人いて、変態も二人いるのですが、どちらの変態でしょう? 「ああ、変態王子は二人いたな、すまない。第一王子とどう対峙するかだったな。ただリリアンを連れていきたくない」  心の声、聞こえていたらしい。話は第一王子主催の夜会に夫夫(ふうふ)揃ってご招待いただいたことだった。敵地に乗り込むのには勇気がいるが、貴族なら断れない。 「でもそれが終わらないと、僕たちの安全な未来は無いですよ?」 「でもなぁ第一王子主催の夜会だなんて、いくらリリアンに私という夫がいようとも、人妻になったリリアンの美しさに、王都の男の視線を奪わせるのは苦痛だ」 「ふふ、僕も苦痛ですよ? いくら妻がいようとも、こんな逞しくてかっこいいガリアード様が現れたら、きっと女性たちの目はそちらに行ってしまう。僕はその人たちに嫉妬をするんです、そんな醜い僕を見せたくないな」  ガリアードは驚いた顔をした。 「リリアンが嫉妬?」 「しますよ、だって僕は自分の下着にさえもガリアード様の目が奪われることが許せない心の狭い人間ですよ」 「ああ、可愛い、だからあれからあの素敵な下着を履いてくれないの?」 「だって、ガリアード様は僕じゃなくて下着を見るでしょ、嫌だもの」  本当はあのいやらしい下着を履くのが嫌なだけ。あの下着を履くと三割増しにエッチがしつこくなるから、ちょっと困っていた……嬉しいけど。  だから最近は履いていない。ガリアードが普通の下着を見るたびに、すこし寂しそうにしていたから罪悪感もある。だからこういう理由を作ってみた。誰も傷つかずに穏便にすます方法を俺は考え出したのだ、ちょっと恥ずかしいけど。エロ下着を履くよりはマシだろう? 「リリアン、結婚して日にちが経つにつれ、どんどん可愛らしくなっていく、演技の通り本当に私の部屋で軟禁生活を一生できたらいいのに」  怖いことを言っていらっしゃる。 「僕も一生ガリアード様にお部屋で囲われたいですけど、それじゃオスニアン家の名前に傷がつきますよ。僕もこれからはオスニアン夫人として、この屋敷を切り盛りして、社交界でもガリアード様の自慢の妻になりたいですから! 引きこもりすぎるのもよくありませんよ?」 「賢くて旦那想いの妻を持つと、夫はもっと頑張らなくてはな。今のところ夜は二人きりだし、それでも満足しているからいいか」 「昼も一緒ですよ? 朝も目覚めた瞬間も最初にあなたを見ます。僕はこんなに妻と過ごしてくれる夫がいて、幸せです」 「リリアン!」 「ん、んん、ガリ…ア、ドさま」  深いキスをされた。ガリアードは何を言っても喜ぶ、そして俺は愛されながらも喜ぶワードを自然に口に出せるスキルもできた。愛され妻は自然になってきた。キスがどんどん深くなる、とてもうっとりして、そのままもっと、そう思っていたら、ごほんって渋い声が聞こえる。 「ガリアード様、休憩時間は終わりです」 「リチャード!」 「奥様はこれから、夜会用の服の採寸があります。もう十分堪能されたでしょう? あとはお一人でお仕事をこなしてください」 「うう、仕方ない。リリアン、採寸付き合えなくて悪いな」 「いえ、ガリアード様もお仕事頑張ってくださいね!」  ずっと一緒だったけど、ときに離れることも愛をはぐくむのには必要な行為。しばし別行動をすることに俺は、ほっとした。これも愛ゆえの試練、がんばれっ、ガリアード!  ガリアードに可愛くガッツポーズを送った、するとデレた笑顔が帰ってきた、俺も微笑みを返した。それを見届けて部屋を出た。  部屋を出た後、ガリアードの雄叫びが聞こえた、今夜は燃えるかな? いや、今夜も? 愛のエッセンスを適度に送信する。これ夫夫(ふうふ)生活に大事なこと。  クスクスと俺の隣で笑うリック、採寸のお部屋まで連れていってくれるらしい。 「リリアン様もだいぶガリアード様の扱いに慣れてきましたね! もう小悪魔なんだか無垢なんだか、俺もリリアン様を見習って旦那デレさせたい!」 「ふふ、リックの方がヤンを上手く扱っているでしょ。僕から見たらいつもヤンはリックを見てデレて? いるよ。二人とも仲が良くて見ていて微笑ましいよ」 「俺もお二人を見ていて微笑ましいですよ、はやく旦那に会いたくなる」  俺たちは仲良く会話しながら、居心地のいい辺境伯のお屋敷を歩いていた。平和だ。
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