25 予期せぬ訪問

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25 予期せぬ訪問

 結婚して初めての公の場には、お揃いの色の服を着ていくことで、新婚のお披露目となるという世界らしい。  最初の場所がむしろ王子が開く夜会ならまずまずだろうとガリアードは言った。でも第一王子に不仲説を植え付けたいのに、そんな世の中の新婚と同じようなことしていいのかと聞いたら、世間体を気にしただけだろうと思われるだけだから問題ないとのことだった。  そしてリックとジュリがニコニコしながら、二人仲良くお茶を飲んで俺の採寸を見ていた。二人はすっかり仲良しになって、そこに俺も入れてくれるのでよく三人でお茶をしている。だいたいが恋バナというやつだ。  社畜時代には縁の無かった話、俺とリックは受け入れ要員なので……アレをね。会話も男みたいな戦いやら政治やらではなくて女側のきゃっきゃうふふ系をするのが主流らしい。 リックはひたすらヤンのことを話す、オープンなので夜の話もたびたび。  ジュリは実は恋多き女なのでハンターの目を持ち、リックにここの使用人の配置、性格、性癖を調査中だ。最後の性癖いる? むしろそれにリックが答えたら驚きだ。  王都でならありえなかっただろうが、ここはガリアードが治める辺境伯領。王都から離れているだけあってとても自由な環境だった。領民も気さくで優しいし、騎士も気取っていなくて楽しい。  そこへドアをノックする音。ここではリリアンが無防備になっているから立ち入り禁止にしている。リリアンの採寸時の薄着もリックとジュリとデザイナーにしか見せてはならないとガリアードからきつく言われていた。  リックが素早く席を立つ。 「もう、誰だろう? ここは誰もきちゃだめって言ってあるのに! ちょっと俺、見てきますね……あれ、セバスチャンさん?」  セバスチャン、お決まりの名前が出てきた。もしや!? 「失礼いたします。急な来訪なのですが、リリアン様にお目にかかりたいというお方が……」  執事だったぁー。  お決まりのセバス、多分初めてあった時に名前聞いたんだけど、俺転生したばかりでどうやって生きていこうと必死だったから、執事の名前が覚えてなかったんだよね。うわぁぁー、感動! やっぱり執事は田中さんかセバスチャンだよね。そんな微笑ましい脳内とは違い、現場は荒れていた。なんだかリックが、わぁわぁ騒いでいると思ったら、案の定お騒がせな奴が現れた。 「よっ! きちゃった」 「よって、あんた何してるんですか!? 略奪か? 花嫁略奪しに来たのか!?」 「馬鹿なこと言うなよ、俺には大事な女がいるからそんなことしないって、そんなこと考えただけでも、俺ガリアードに殺される自信あるから」 「じゃあ、早く消えてください。今リリアン様は採寸をしていて人前に出られる姿ではありませんから!」  リックが大声で不穏なことをいうから、瞬時にジュリが対応して、俺にシャツを着せてくれた。このやり取りって、まさか。そして次の瞬間、現れた男を見てぞっとした。 「よぉ、ガリアードのかわい子ちゃん」 「で、殿下!? と、お、お、お兄様ァッ!?」 「うーうー、ううー」  兄が第二王子に抱えられている。足と口には布が巻かれて、身動きも喋ることもできずに苦しそうにしている。 「ああ、ごめん、ごめん。ワインバーグ少公爵が暴れそうになったから、確保して連れてきちゃった。ごめんね? 今君に騒がれると計画が台無しになるからさ、直接会って確かめた方がいいと思ってね」  一体どういうこと!?  リックによって兄の口の布と足の拘束が()かれた。するとすぐに俺のところに駆け寄り、抱きしめられた。 「リリたん! お兄ちゃんと一緒に今すぐ逃げよう。あとのことは父上に任せて、とりあえずこんな変態ばかりのいる屋敷にいてはだめだ。すぐに離婚手続きも進める」 「え、ええ!? 変態? り、離婚!?」  一体どうしたというのだ、それよりもなぜ殿下が兄を拘束してきたのだろう。  バタバタバタバター。  そしてまたしても大きな足音で乱入者の気配。 「リリアン! き、貴様っ、私の妻に何をしているー」 「ガ、ガリアード様っ、待って」 「リリアンお前はその男をかばうのか! そもそも新婚の夫がいる身で、男に抱きつくとは、いったいどういうことだ」  うわっ、怒っている。  初めてリリアンにも怒声を浴びせた。思わずびくっとして、ますます兄にしがみついた。兄は怯えた弟を瞬時に察知して、抱えると、窓を飛び越え庭におりた。えっ、お兄様そんな瞬発力あったの? うちは代々宰相の家系だから武には全く長けていない、それなのに逃げ足だけ早いって逆に凄くない!?  というかどうして逃げた!? ますます誤解されるだろう! 「クソっ、俺の妻を! 逃がすか」    追ってくる俺の旦那、顔が怖くてたまらん。俺もそのまま逃げ切りたくなってきた。でも足の速さは現役騎士には勝てず、追いつかれそうになった時、兄はリリアンを丁寧に降ろして、ガリアードに体を向けて、リリアンを背中に隠した。 「お前なんかにリリたんはやらん! 返してもらうからな!」 「貴様……。どうやら死にたいらしい」  ええ、お兄様。なぜ剣など握るのですか!? あなた剣使えないでしょ? そしてガリアードも剣を構えた。  まさか、まさかのアニメの強制力ぅ!?  二人で剣を構えだしたら、俺が止めに入って死んじゃう運命、変わらないんかーい! どんな無理やり強制力だよ。さっきまできゃっきゃうふふと可愛い二人と楽しく話しながら夜会ための採寸をしていたのに、なぜ急に修羅場!  そして殿下、お前は実はリリアンの敵か!?  あいつが兄を拘束して連れてきた。ひどい展開すぎて、全くついていけません。社畜はどう動けばいいのでしょうか? 最近平和ボケしていて、すっかりこんな緊張する空気感を忘れていた。ああ、俺どうなる? どうなる? 俺。 「そこまで!」  そこで俺が動く前に駆けつけた殿下が声を出した。ジュリとリックも慌てて走って庭に出てきた。助かったの? 俺の死亡フラグ消えましたか? 「サリファス! いったいどういうことだ、なぜ貴様がここにいる。それにこの男は誰だ! 俺のリリアンを抱っこした。許せない行動だ」 「お前、怒ると本性出る癖治ってないな。それに怒るところそこなの!? お前いつからそんな残念な男になったんだよ。そいつはリリアンの兄だよ」 「え……」  ガリアードが固まった。
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