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27 弟腐妻の閨事情
セバスチャンが席を用意してくれたので、屋敷の中の応接室で皆、落ち着いた。
俺の隣はもちろんガリアード、その向かいに兄と殿下。そしてジュリとリックとセバスは立って控えていた。
「小公爵が兄上と王家の秘密の部屋から出てきたから、兄上と別れた後に捕まえたんだよ。人を殺しそうな目をしていたから、もしかしてあの映像見せられたのかなって、てへっ」
「「「……」」」
みんな唖然、それは拉致ですね。説明ないだけじゃなくて、いきなり拘束されて、瞬間移動みたいな感じで辺境まで連れてこられて、目の前に弟がいれば助けるでしょ。
兄はむすっとしている。
「と、とにかく、お兄様、大変申し訳ありませんでした。お怪我は大丈夫ですか?」
「ああ、どこにも痛みはないよ、リリたん」
あっ、機嫌がなおった。
「小公爵様、私の友人である第二王子が大変失礼いたしました。私はリリアンの夫になった、この辺境を治めるガリアード・オスニアンです」
「貴様っ! リリたんを騙せてもこの私は騙せないぞ。よくも可憐で可愛い、最上級に可愛い、天使のように可愛い、とにかく可愛いしかでてこない我が弟の花を散らしてくれたなっ!」
うわっ、可愛い四連発! その前に毎回なにかしらつけてきているし、このままじゃ、会話も始まらない。
「お兄様っ、僕のことをそんなに想ってくださりとても嬉しいです。でも話を聞いていただけませんか? 僕は無理やりガリアード様に散らされてなどおりません。僕は、自分の意思でガリアード様に愛していただきました。今も、ずっと、毎晩、その、愛を、」
「リリたん! 聞きたくない、お兄ちゃんはリリたんのそんな破廉恥なこと、聞きたくないよぅ、いまだ処女だと思いたいお兄ちゃん心をわかってくれ」
「えっと……」
無理でしょ、貴族の結婚は初夜後の精液確認あるって、あなたも嫁を抱いたなら知っているだろう。この世界のエロ設定を!
「もう止め! とにかく話を聞け、アンディ。二人は変態プレイをするほど愛し合っている、間違いなくリリアンの処女はガリアードが貫いた」
「殿下、言い方!」
殿下のセリフに、リックがかぶせた。マジで本当に、言葉選べよ、身内のあんあんなんて聞きたくないし知りたくないだろう。
「あ、ああすまない。アンディ、お前が兄上と部屋で何をしたか言ってみろ」
「は、はい。第一王子からリリアンのことで秘密の話があると言われて、王族しか入れないという部屋に連れていかれました。そこには大きな鏡があり、そこで殿下が何か道具を向けるとリリアンが映りました。それはそれは美しい妖精のように愛らしい姿をしたリリアンが、そこの大男に、脱げと命令されてから……うう、う、りょ、凌辱が……」
ああ、お兄ちゃんまた泣いちゃった、可哀想に。愛すべき弟が政略結婚をしてその夜に凌辱された、それを他人から知らされたどころか映像まで見せられた。
「その映像はどこまで見た?」
「リリアンがそいつに押し倒されて、そこからは音声だけでしたが、酷い扱いだった」
「それを兄上が見せたのだな、おかしいと思わなかったのか?」
「それどころではありません。私の可愛いリリアンが悲痛な声をだして泣いて助けを求めていた!」
良かった、兄に見られたのは良くないが、第一王子がなんにもしかけてこないから、ストーリーが変わって手鏡を見るのを止めたのかと思ったよ。あんな恥ずかしいことをしたんだから役にたってもらわなくてはむしろ困る。
そこで殿下が、今までの話を兄に伝えた。
なんで殿下って? それは兄がガリアードをずっと睨んでいたのでガリアードの言葉を今は聞けないだろうということと、俺は上手く話せる気がしない。腐っても王子だ、プレゼンというか説明がとても上手だった、全て事後報告で人から聞いた話なのによくまとまっている。それこそが王の気質なのだろうか。
「そ、そんなことが。では、リリアンは辺境伯に凌辱されていない? すべて演技だというのか? 父上からはそんな話、聞かされていなかった」
「はい、僕は一度もガリアード様から乱暴をされたことがありません。むしろありえないくらい丁寧に大事に扱われております。愛情しか感じたことはないくらい、とても、毎日幸せです。あとお父様には演技の内容まで言っていなかったから、そこまで話が大きくなるとは思ってなかったのかと思われます」
そう言って、ガリアードを見た。俺たちは隣同士で座ってずっと手を繋いでいた。別に兄に仲いいアピールしているつもりはなく、それが俺たちの通常運転だからだ。そしてガリアードも俺を見てほほ笑む。めちゃ仲良しだろう?
「小公爵様、そのシナリオはうちの家令がいかに第一王子を騙せるかを考えて作ったもの、ただただ二人で仲良く読み上げただけです。ですから、私はリリアンから血を流すような乱暴なことは一切しませんし、これからも真綿に包むように大事に守っていきます。まさかその劇をリリアンの身内に見せるような野蛮なことを第一王子がするとは思っていなくて、配慮が足りず申し訳ありませんでした」
「そ、そうか。そうだったのか、それにしてもやけに上手すぎる、本当に演技か? 君は変態プレイを、私の可愛い弟に強いることはしないと約束できるか?」
変態、どの辺をもって変態プレイというのだろうか。
「もちろんです。あの時の演技で私のモノをリリアンの小さくてかわいい口に咥えさせるという行為を表現しましたが、リリアンの口はまだ私の唇しか味わったことはありませんし、どんなに強請 られても私のモノを咥えさせるなど、そんなリリアンを汚す行為は絶対にいたしません!」
「ガ、ガリアードさまぁっ!?」
いったいなんの宣言だよ、そこに驚いているのはリックとジュリ。こんなにラブラブで、リックがどう咥えると旦那が喜ぶかまで三人の会話でレクチャーしてくれていたから、てっきり俺がガリアードに口淫くらいしたと思っていたらしい。おい、そこの二人、顔に出し過ぎだろう! ガリアード残念だねって顔を見せるな、俺の旦那を憐れむな! 俺だってやってあげたいけど、拒否られたんだ。リリアンの可愛いお口を汚せないって言われたら、もう仕方ないだろ。
「えっ、マジで!? こんな可愛い嫁を捕まえて口淫の一つもしてもらえないなんて、可哀想だな」
「殿下こそ、まだ彼女を抱くことすらできなくてお可哀想ですね。私は毎晩妻を 愛でておりますから、特別なプレイなどなくても毎晩絶頂を経験しております」
貴族の結婚は処女が基本。
殿下も今は危ない時期で結婚どころじゃない、王太子になって安全を確保できなければ彼女と結婚できないので、ずっとお預け状態、しかもセフレも全員解消。溜まっていらっしゃるようですね。ちなみに第一王子も陛下からの信用を得られなくて王太子に指名されていないので、王太子の地位は、今は空白。それもあり第一王子はなんとしても王太子になりたくて、ワインバーグ公爵家を味方につけるために頑張っている途中だった。そこでリリアンに目を付け、次に兄をけしかけ、最後に公爵を味方につける、そういう流れの最中真っただ中。
そして勘弁してほしい。ガリアードも殿下に対抗するなよ! 毎晩絶頂って、リリアンの孔が名器だって実の兄に言うなよ……俺的には旦那に喜んでもらえるのは嬉しいけど。
リリ兄、絶句。
普通のプレイを毎晩しているってさ、それ聞いて嬉しいと思うの? バカでしょ、変態プレイしてないっていうのは大前提の話であって、可愛い弟が毎晩旦那とやっているのは知りたくない事実ですから!
「お二人とも、失礼ながら話が脱線しておりますし、リリアン様が真っ赤な顔して困っていらっしゃいます。閨でのことを他人に言うなど、貴族がそんなタブーをするのはいかがなものでしょうか。小公爵様のお気持ちもお考えください」
セバスチャン! あなたは天使か!? バカな男二人を止めてくれた。
「セバス、すまない。アンディ悪かった。とにかくリリアンは幸せだということだ」
「そうです、リリアンを大事に扱っているので、無理強いは決して致しておりません」
この変態二人が言っても説得力ないだろう。
「お兄様、聞きたくないことを知らせてしまい、申し訳ありません。でもリリアンはこの通り元気ですし、幸せですよ?」
「……リリアン」
兄は寂しそうな顔をしたけれど、微笑んでくれた。
「君がそう言うなら、信じよう。でも変態夫が少しでも変態の片鱗を見せたらすぐに奪いに来るからね、絶対に無理強いされても抵抗するんだ。リリたんはいつでも公爵家で迎え入れるからね」
「ありがとうございます。お兄様」
ちょっとまだわだかまりある言い方だが仕方ない、ガリアードにも非はあるからな。
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