31 王都へ

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31 王都へ

   夜会のための衣装も出来上がった。  辺境から王都へと出発した。何のためか知らないが、辺境の騎士団も少人数の隊を組んで馬車の守りを固めた。俺とジュリとリックは馬車で移動。ガリアードは騎士を率いて馬で移動して、俺の馬車を守りながら王都への道を行く。  荷物もある大移動なので五日かけて王都まできた。途中で宿に泊まり大変なご一行様となったが、騎士たちは酒場でわいわいしていて、まぁ修学旅行みたいなものかな? なかなか楽しかった。  宿でガリアードは抱き合って眠るけど、俺の移動中の体力も考えて本当にくっつくだけで何もしなかった。結婚してからエロ触れ合いの無い日々に、なぜか戸惑った、もう体を繋げるのが当たり前すぎて、逆に新鮮だったけど、できれば体は繋げて眠るほうが好きだ。俺すっかり十八禁仕様のお身体になってしまったよぉ。普通じゃない、こんなの普通じゃない、この世界の男はどうかしている むしろいまだ殿下が数か月も清いことに、逆に尊敬するくらいだった。  そんなくだらない話はさておき、おさらいしよう。  本来のアニメなら、リリアンは第一王子主催の夜会には行かない。  ガリアードが一人で出向いたはずだ。俺を王都に連れ出して泣きわめいて、虐待がばれるようなことになったら大変なので、リリアンは慣れない地で体調を崩し、王都まで出歩ける体力がないとのことで片付けられた。その間、リリアンは久しぶりに休息をとっていたがそれもつかの間、ガリアードは律儀に馬を飛ばして、早くても片道三日はかかる距離を、往復三日で帰って来た。すごい凌辱根性!?  夜会に出て、そのまますぐに馬で戻った。どれだけリリアンを凌辱したかったんだ。しかたない、凌辱がメインのアニメだったから、凌辱なしにはこのアニメを語れない。作者、俺の夫をそんな男に仕上げるなんて、許すまじ!  まあ、そういうことだからその時のリリアンはまだ生きている。 リリ兄もあの映像を、第一王子から見せられていなかったのでリリアンの境遇を知らなかった。夜会でガリアードに会った時、リリ兄とガリアードは普通に会話をした。リリアンは元気だとガリアードはリリ兄に伝え、自分の手紙は無事に届いているのか? リリアンにも手紙を出すように言ってくれとガリアードは聞かされた。リリアンは隠れて兄の手紙を受け取っていると悟ったガリアードは怒りに任せて即帰宅、凌辱、お決まりのパターンだった。  物語はそんな状態だったはず、それが何ということでしょう!  リリアンいまだに凌辱されていませんし、リリ兄はすでに第一王子から卑猥映像を見せられて、しかも辺境伯の屋敷にまで招待? されていた。手紙は届いているし、リリアンも手紙を返している。今生ではガリアードは手紙のやり取りを禁止していないから、毎日のように兄からの手紙は届いていた。だいたい会いたい、愛している、会いたい、そんな内容のない手紙、郵便届ける人に迷惑だからやめてあげてって思う。俺も十回に一回くらい返事をしていた。辺境伯領は素敵なところでリリアン幸せですっていうたわいもない内容を。  とにかくアニメと流れが大分違うので、俺は夜会の流れを知らない。アニメにはガリアードとリリアン兄が少し話すところしか出てこなかった。  注意して行動をしなければならない。初めてカンペのない世界を今、生きている。  王都に着くと、まずリリアンの実家に向かった。リリアン達ご一行は公爵家に滞在することになったのだ。久しぶりに実家で親に甘えると良いとガリアードが言ってくれた。そして馬車が着くとそこには、久しぶりの両親がいた。 「リリアン!」 「お、お母さまぁ!」  リリアン同様小柄な母が駆け寄り、リリアンを抱きしめる、そして涙を流してリリアンも母に縋った。 「うっ、お母さま……っ、お会いしたかったです」 「まぁリリアン、お嫁に行っても可愛い私の息子、甘えん坊は治らないのね?」  俺は瞬時に思い出した、というか悟った。  これは俺の人生、俺は社畜をしていて死んだ瞬間、あのガリアードと初対面の時に転生してきて、リリアンの体の記憶を持っていると思い込んでいた。  だが違った。  俺は……俺こそがリリアンだった。リリアンとして十八年生きてきたのは俺だ。前世が社畜として三十二年生きて階段から落ちて死んだだけで、ただ前世を思い出した瞬間が、政略結婚の日だっただけ。  どういうことだろう、前世とか来世とかって時間軸ばらばらなのか? それとも俺が前世で見たアニメの世界は本当にあって、また違う軸でリリアンのああいう結末もあったということ? 正直全くわからん。ただ流行りの異世界転生なだけではなく、複雑ないろんな要素が組み合わさっているのだろうか。  それでも俺は母に再会して、俺は僕であったことを思い出した。  性格が急に変わったというよりは前世の記憶が今のリリアンよりも強烈で、今の性格の方が落ち着いただけだ。それを思い出さなければきっと、この苦行は乗り切れないと判断した自分の魂がそれに近い前世の記憶を呼び起こしたに違いない、哲学とかスピリチュアルとかはわからないが、俺はリリアンで、僕こそがリリアンだった。リリアンを守ってあげるつもりで頑張ったけれど、俺が俺を守る。俺こそがリリアンだということを母の胸で思い出した。  だからガリアードに甘えるしたたかな動作が当たり前にできていたことに納得した。作らなくても自然にスラスラ出る、男を喜ばせてしまう素直な心は十八年間、俺がリリアンとして愛されて育ったからこそ、純粋にそういう言葉が出る性格だったのだ。  なんだか納得して、妙にスッキリした。そう思ったらやはり実の母に会えた喜びで胸がキュンってなっていた。 「お母さま……」  再度、母にぎゅっと抱き着いた。すると隣から優しい声が聞こえて、頭にとても優しい手が触れてきた。大好きな父の手だった。また俺はリリアンとして愛されてきたこの家族を想い、涙があふれた。 「リリアンいつまでも泣いてないで可愛い顔をみせておくれ。ガリアード卿もよく来たね、二人とも気兼ねなく過ごしてくれ」 「ワインバーグ公爵様、この度はお招きありがとうございます。リリアンだけではなく、わが隊までお世話にならせていただき恐縮です」 「固いことは言うな、息子よ。私はもう君の義父だ。ここは君の家だと思ってくつろいでくれ」  全てが変わった。あのアニメのままの現実はどこにもなく、父もガリアードを受け入れ、リリアンの泣き顔を見ても怒らずに、優しい言葉をかける夫がここには居る。
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