32 婦人会

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32 婦人会

 一晩、実家で休んで翌日はゆっくりと母と過ごしていた。ガリアードは父と出かけて行った。なんだろう? 男たちは色々とやることがあるらしい、って俺も男だー。  リリアンとして生きた記憶が戻っても、なんだか社畜人生の方が身近に感じてしまう今日この頃、中身も立派に男なんだよ、俺は。彼女もいたことあったしな、俺だって男として魂だけは色々と経験豊富なんだ。  そんなことはさておき、ジュリも久しぶりの公爵邸で元同僚と会えて喜んでいる。良かった、良かった。ちなみにアニメ……もうすでにアニメの世界なんだかパラレルワールドなんだか疑問だが、まぁいい。深く考えるとわからないから、今まで通りアニメの世界観の話をしよう。  その世界だとジュリは初夜を迎える前に公爵家へ帰された。医者がリリアンを処女じゃないと宣言した時点で、一緒にきた侍女も怪しいとなり、辺境伯家での秘密など公爵家に漏らされる可能性もあるとガリアードは考えた。邪魔なジュリは早々ここに戻され、そして俺の悲報を聞いて泣いて暮らした。あのまま側に居れば良かったって、ジュリは小さい頃からのリリアンをずっと支えてくれた人だった。それが急に側仕えをリリアンの旦那に禁止され、それが一生の別れになったから悔しくて仕方なかったみたいだ。  そんな悲しみしか生まないストーリー。  そして今の俺は、どうよ!?  ジュリとは主人と侍女の垣根を越えて、茶飲み友達として辺境の地で過ごしていた。一応公爵家でそのような振舞をすると、他のメイドからジュリがいびられかねないから、ここでは前と同じように過ごすとジュリに言われた、仕方ない。リックは男前な性格だけどとても可愛くてやんちゃで、すぐに公爵家の従者たちに受け入れられて、旦那のヤンはやきもきしていた。でもヤンは騎士としてガリアードの側を離れられないので、泣く泣く男たちの何をやっているかわからない現場へ同行していた。  俺はというと、兄嫁と母と近隣の母友たちを交えて楽しくサロンでお茶会だよ。ガリアードは一応、王都で人気の屈強な騎士だった。王国を救った英雄が、しばらく王都へ滞在するとなったら、噂好き貴婦人たちは、嫁にいった息子と息子婿の話を聞きたいと、ワインバーグ公爵家のサロンは大盛り上がりだった。  ガリアードよ、父たちとお出かけしてラッキーだったな。俺はご腐人たちにもみくちゃだ。 「でもリリちゃん、随分とイキイキしているわね。凄く安心したわ、アンディ様がリリたんリリたんって、もう毎晩泣いていたのよ。これで本当に泣いちゃうような状況になってなくて良かった、リリちゃんったら、辺境伯様とあんなにアツアツなんだものぉ」 「あら、エリザベス様。そこんとこ詳しく!」  エリザベス様は、兄嫁だ。リリアンは兄嫁にも愛されていて、久しぶりの再会では泣かれてしまった。  兄と義姉は貴族では珍しく大恋愛で結ばれたから、政略結婚をする俺を最後まで心配してくれていた優しい人だ。リリアンもこの義姉が好きだった。 「今朝出かける時に、熱い抱擁の後、なんと! 三分半もの間キッスの嵐、ドキドキしちゃったわ。アンディ様に見られたら大変よ、リリちゃん。辺境伯様がこの家で暗殺されちゃうわ」 「「まぁ!」」 「きゃぁ、リリアン様ったら」 「さすが新婚さんだわ、英雄も王国の花にメロメロね」  というわけですよ。お義姉様は、俺たちのキッスを時間を測りながら見ていたのですね。楽しそうにご婦人たちの話題にされてしまったよ。  ガリアードが、ここなら誰にも見られないからとか言っていたから安心してキスしていたのに。  実家恐ろしい。  こんな感じでわちゃわちゃと過ごしているが、とても穏やかな時間。そして明日はいよいよ夜会! ノープランなのは心もとないが仕方ない。明日はガリアードと俺は政略結婚しただけの夫夫(ふうふ)を演じる。見た目は仲良くして、実は冷めているそんな関係……できるのか!?  すでにこの家ではアツアツで、食事に向かうだけでも手を繋いでいるし、食事の席でもいつもの癖でガリアードがあーんして俺の口に食事を運ぶ、俺は当たり前のようにそれを食べる。  家族唖然。  俺は思わず赤い顔をして言い訳をした。 「あっ、いつもガリアード様が食べさせてくれるので、つい習慣になってしまっていて、お行儀が悪くてすいません」 「申し訳ない、私もいつもの癖で当たり前にリリアンに食事を与えておりました」  兄がワナワナしているのを、笑いながら義姉が兄の頭をヨシヨシしていた。なだめるのが上手いです、オネエサマ。 「ごほんっ、まぁ、あれだ。仲が悪いより良いことだ。だが、わかっているな? 夜会ではそのような姿を見せるな。この公爵家だけにしなさい」 「父上! ここでもダメです。私でさえも、リリアンにあーんなんて、子供の時以来したことないのに」  お兄様、やはり、そうですよね。羨ましかったんだね、リリアンへの餌付けが。 「まぁ、アンディ。新婚なんだしいいじゃないの。英雄がこんな甘いお顔するなんて、貴重なもの見せてもらったわ! リリアンは愛されていて母様は嬉しいですよ、ねぇ旦那様?」 「ああ、そうだね。君の言う通りだ、息子夫夫(ふうふ)が仲良いのは嬉しい」  父は母の言うことにイエスマン、これ仲良くやっていく秘訣ね。兄は義姉にヨシヨシされて大人しくしている、これも夫を転がす妻の典型ね。うん、ワインバーグ公爵家は今日も通常運転でした!  そして、俺とガリアードも仲良くいつも通りだった。
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