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39 新しい計画
「リリアン、お前の演技にかかっているぞ!」
「「「で、できません!」」」
「うわっ、圧強っ、三人がかりか!?」
殿下が驚きの声を出した。俺とガリアードと兄が声を荒げた。えっと、お兄様もデスカ?
「まぁ聞けよ、今度は映像も見せつけたほうがいい。こないだ公爵はガリアードとアンディを連れて、バンドレフ侯爵と会っていたな? ついに味方につけたんだろう?」
「さすが殿下、よくご存じで。バンドレフ侯爵は第一王子派最大の貴族ですが、あの男は真面目過ぎるので、不正は許さない。味方ではないですが、殿下の不正の証拠さえ見ればきっと動いてくれます。リリアンが録音に成功した暁にはそれを聞かせるつもりでした」
ああ、公爵家にきて俺がご腐人たちにもみくちゃにされている婦人会の時、三人でどこか行っていたのは、そういうことなのね。きちんと根回しするなんて、さすがリリパパ。
「まさかガリアードがあの侯爵にリリアンをいかに愛しているかを力説するとは、バンドレフ侯爵は驚いていたぞ。兄上からあそこは王命による政略結婚だから、自分が王になれたら王命を廃止して兄上がリリアンをもらい受けると聞いていたんだとさ。早くリリアンを不当な夫の暴力から解放してあげたいとかなんとか? 二つの異なる情報を精査するため、俺のところに確認にきたんだよ」
えっ、凄い。さすがバンドレフ侯爵、巷では公正で頭の固いご老人で有名な方だった。異なった意見を確かめるために、動くなんて。
それもそのはず、陛下に俺を献上したらどうかと言った貴族はバンドレフ侯爵だった。彼は誠実な人で有名だから、父と兄の呪縛に雁字搦めの”王国の花”が行き遅れるくらいなら、英雄と縁を繋げたほうが良いだろうとの優しさからの陛下への進言だった。それが、花が手おられているなんて聞いたら、第一王子にすぐにでも協力しなければと思った矢先、父が息子婿を紹介したいと言ってきた。真実を見極めようと秘密裏に会ったらしい。
ところが、ガリアードは俺を愛していると、侯爵に力説したらしい。
それにリリ兄も参戦して、兄の方がリリアンを愛していると言い、愛している合戦を侯爵の前でした。なんて恥ずかしい身内。リリ兄がリリアンを溺愛しているのは有名過ぎる話なので、そこは信じて、さらにそのリリ兄が張り合うくらい愛しているというガリアードを見て、もしや第一王子はリリアンに懸想しているだけでは? と思ったらしい。極めつけはリリアン溺愛パパも、ガリアードはいい婿だと言ったこと。一応宰相としてリリパパは信頼のおける人で通っているので、そんな人が認める人間なら、そこに嘘はないだろうと思ったんだって。
「よくやったな、二人とも。ただリリアンを愛していると言い合っただけにも思えるが、それが侯爵の胸に響き、兄上への不信感にも繋がった」
リリアンは辺境伯で酷い扱いを受けていると、侯爵は第一王子から聞いていた。それが、目の前では本人の兄と夫が、リリアンを可愛いと煩い。そしてその夫の親友の第二王子は二人仲睦まじかったと言う。それだけで物事を冷静に判断するには、本人の意見と物証がない。
そして何のために第一王子が嘘を言うのかも、最後まで目的を見極めたいから、何かあるなら証拠が欲しいと言ったということだった。きっとこれが第二王子除籍運動の一環だと気づいたのだろう。第一王子の母である正妃の家と遠縁にあたるバンドレフ侯爵は、必然的に第一王子派の筆頭となっているが、不正をして、玉座を手に入れるのは許されない。
それにいまだ王が王太子も決めないことに、侯爵は何か不穏なものを感じていた。第一王子の政策は酷いものが多いが、なにせ血筋は良すぎるので誰もなにも言えない。かという第二王子の政策は国民にとっていいモノが多い反面、昔からの貴族には第二王子が王になったら、排除されてしまうかもしれないという懸念があり、後ろめたい貴族からは、第二王子が支持を受けられないという現状も、おかしなモノだと思っていた。
そこにきて、リリ父から第一王子が息子婿を不当に排除しようとしている証拠があるかもしれないから、それを確認して欲しいと言われたら、それはもう疑うしかなかった。
「だからこそ、目に見えてリリアンが愛されているという証拠が欲しいんだ」
「じゃあ、私がリリアンを痛めつけたら逆効果でしかありません。しないし、絶対痛めつけないよ、リリアン」
殿下に言いきった後に、俺に向かって笑顔を向ける。そしておでこにチュってした。
「貴様、私のリリたんの神聖なおでこに、なんてことをしてくれるんだ!」
「お、お兄様。落ち着いて! 殿下いったいどういう意図があるのか、詳しくお聞かせ願いませんか? 僕は必要なことならやりますが、この間のように第一王子を喜ばせる目的と言うなら、お断りいたします」
「殿下……いったいなんの話ですか? 変態王子を喜ばせるとは?」
兄がまたお怒りモードに入った。第一王子のこと、変態王子って言った! 実の弟の前でお前の兄は変態王子だと言った! いくらなんでも不敬に当たるのでは!?
「アンディ様、変態王子はリリアンの痴態を見る喜びという趣味もお持ちのようで、それを知ったこの変態王子の弟であるバカ殿下は、私のリリアンの手おられる姿を第一王子に見せて油断させる演技をしろとおっしゃったのでした。しかし私の愛する妻の裸体を他の男に見せるなど、絶対いたしませんのでご安心ください」
はい。ここにもいた! もっと不敬!? 第一、第二、両殿下を罵っております。俺の旦那様は。殿下は……怒っていないようですね。バカって言われたって、ボソッと言って給仕に来ていたリックのお尻を撫でようとして、リックに手を叩かれていた。
「なに!? 我が義弟よ、よく言った! その調子でこれからも私の可愛いリリアンを守ってくれ」
ガリアードと兄は固く瞳で頷きあった。この意味不明なリリアン愛する同盟に救われて、兄とガリアードは和解したらしい。それはさておき、本当にこの事態をどうするの?
「はいはい、じゃあ真面目な話ね。兄上を誘うには君たちが不当な関係という映像が必要だから、やはりそういう現場……ヤラらなくてもいいけどリリアンを叩くくらいしないと、証拠として公爵に伝えられないだろう?」
「叩くなど! するわけないだろう!」
ガリアードが怒る。
「最後まで聞けよ。とにかく、それをワインバーグ公爵が見て、次の段階では仲良くなっている姿をバンドレフ侯爵にも見せて、凌辱プレイの末に仲良くなったとか、とにかく円満夫夫であることを知らせればいい。その証拠をバンドレフ侯爵にも見せる手はずを整えるために、ワインバーグ公爵が兄上を誘導しなければならない」
殿下の言いたいことは、第一段階で凌辱シーンを第一王子が父に見せる。自分は身内だから他人が見てこれは不等な扱いだという証言も欲しいから、王妃と親しい貴族の筆頭でもあるバンドレフ侯爵にも見てもらい、判断を仰ぎたいといい、秘密の鏡部屋に招待してもらう。そこでリリアンとガリアードのただただ仲のいい夫夫関係を見せつけられる侯爵。これは新婚家庭の閨を覗き見している、しかもこの国の王になるかもしれない人が、趣味のために公爵家の花のいやらしい姿を私利私欲で見ている。
そして王家の秘宝を勝手に個人にあげるなどという行為も、王への反逆に値する。そういう方向で断罪するのはどうかという筋書きだった。
まあ流れはいいけれど、途中経過の俺とガリアードの体を張った演技はいただけない。
どうなることやら!?
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