44 ガリアード・オスニアン辺境伯 ~ガリアード視点~

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 今リリアンが私の目の前で寝ている。  本当に愛おしい、あの断罪劇が終わったあと、すぐに私の部屋に移動してリリアンを抱いた。そして今健やかな寝顔を惜しみなく見せてくれる。とても愛おしい私の最愛。リリアンの寝顔を見ながら、抱く前に少し、リリアンと話したことを思い出していた。 「うっ、ひっく、酷い、ガリアード様、やりすぎですっ」 「すまない、そんな泣かないでくれ」 「僕、お父様に、変態だって思われた。ちょっと演技するだけだって約束だったのにぃ、ぼ、僕がガリアード様のほっぺを、た、叩いたの、お父様がどう思ったか。僕、今まで暴力なんてしたことなかったのにぃぃい、ひっく」  可愛い、泣いている妻が可愛い。あれが暴力というのか? どんな無垢な世界の住人だ。 「ごめんね、リリアン。大丈夫だよ、君の父上は変態なのは私だとちゃんとわかっているから、リリアンはやらされただけって誰が見ても分かるよ」 「えっ、それじゃ、さっきの演技は失敗じゃないですか!」  きょとんとした顔も可愛い。 「いや、大丈夫だよ、第一王子と侯爵は騙せたはずだ。リリアンの父上はあの中で唯一演劇をすると知っていたから、まさか精液を飲ませたとも思っていないはずだ」 「飲ませていません! あれはミルクセーキでしょ。あれ本当に僕のミルクだと思ったんですか? いえ、いいです。言わないでください、知りたくない!」  ちょっと期待したんだよな、リリアンの三日分のミルク。たしかに甘いミルクセーキの味がしたときは残念極まりなかった。 「それもすまなかった。あの発想には驚いてしまって、よくあんな卑猥なこと思いついたね?」 「あれは、リックのアドバイスです。僕がそんなこと思いつくわけないじゃないですか!」 「ああ、リックか。そう言えば第二王子が昔リックにそんなことしたって言っていたな」 「えっ、それこそ知りたくなかった……」 「ごめん。もう余計なことは言わないから!」  リリアンが心底嫌な顔をした。  きっとサリファスは変態王子だと思われたに違いない。変態には間違いないが、サリファスの裏の話は実は涙ぐましい事実があった。リリアンは知る必要はないから言わないが。  あの精液三日分は本当の話。  サリファスに相談された時に、それなら絶対別れられると言ったのは私だったから。サリファスはいい加減、未来のない関係を終わらせてあげたかったけれど、なにせリックを愛していたから自分から別れを切り出すことができなかった。その時に思いっきり嫌われる行為をしろと、私はアドバイスしただけだけど、まさかそんなことをしていたとは驚いた。  その時、リックはヤンに口説かれていた。サリファスはリックを本当に愛してくれる人ができたら、その人に渡すつもりだったらしい。そしてそのタイミングがきた瞬間に、リックに選択を迫った。  リックから別れたいと言うべき、きっかけを作ってあげたのだ。  リックに自分が好きならこれを飲めと言った。もしかしたらヤンがいない状況とサリファスが王位を諦めるような状況があったのなら、リックは迷わず飲めたんじゃないかなと私は思った。サリファスも、もしかしたら飲むんじゃないかと思ったらしい。でもそこでリックは察したんだ。これは自分から別れを切り出すべきだと、これが二人の終わり方だった。  ちなみに、リリアンが仮に別れたくてそんなことをしても別れられないぞ。私なら、リリアンのだったら何日分だろうとも迷わず飲むからな!  リックとはまた違うけれど、リリアンも私の想いを受け止めるために、嫌なことも嫌と言わずに従ってくれるところがあったし、先ほどのリリアンからの凌辱劇もとても頑張ってくれたと思う。  一度、本気で嫉妬でどうにかなりそうになった時、リリアンを無理やり犯さないように顔に欲望をかけたことがあった。  少し嫌そうな顔は見えたけど、すぐに表情を隠して私の好きなようにさせてくれた。そして私の顔にもリリアンの欲望をかけてもらった。リリアンに汚されたいという私の感情はきっとバレている、だからこそリリアンはリックの言った精液をコップにいれるという行為をしたのだと思う。私はリリアンの出すものを口に入れるのが好きなんだ、その性癖を理解していた。けれどまさかミルクセーキだったとはガッカリした。そこは本物を出せないリリアンの慎ましさだろう。いつかはやってもらいたいけれど。  サリファスとリックの物語は、笑い話のような終わり方にしたのが二人らしい。  その後リックは落ち込んでしばらく泣いて過ごしたところに、ヤンは付け入った。サリファスもしばらくは廃人のようで流石に心配したが、あれはあれでヤルことが多いから、仕事をこなしていくうちに立ち直っていった。  そんな悲しい恋物語は、私たちにはない。もう誰も私たちの愛を邪魔できないし、私は愛しているからこそ手放すなんてサリファスみたいな考えは持ち合わせていない。 「リリアン、愛している」 「えっ、ぼ、僕も愛してます!」  いきなり真顔で愛の告白にリリアンは驚くも、素直に答えてくれた。 「ここまでいろいろ大変だったが、もう大丈夫だ。私たちにはもう何の障害もない。これからはやっと不安のない 夫夫(ふうふ)生活を送ろう」 「はい! やっといろんなことを考えないで、ガリアード様を愛する事だけに専念できますね、嬉しい!」  リリアンが私に抱き着く。  可愛い、温かい、フワフワしている。この生き物を生涯私の胸の中に閉じ込めておきたい。リリアンにそれを言ったらきっと頷いてしまうと思うから言わない。自由を奪うようなことはしたくない、ずっと笑って、自発的に私の側に寄り添って欲しい。  どんな言葉も足りないくらい、この人を愛している。私はリリアンの頭を撫でていた手を止めて、キスをした。リリアンもいつものように受け入れて口を少し開いてくれた。 「ん、んん、ふふ、甘い、です」 「ああ、リリアン特製ミルクが甘かったからな」 「もう、言い方! 大好き、ガリアード様」 「私もあなたが大好きだ」  リリアンは私に全てをさらけ出してくれる、愛を素直に受け取ってくれる。本当に幸せだった。
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