7 初夜の前に愛を誓う

1/1
前へ
/64ページ
次へ

7 初夜の前に愛を誓う

 なんとか俺の処女が証明された。 「ガリアード様、ありがとうございました」 「旦那として当然のことだ」  リリアンの濡れたお尻をガリアード自ら拭き拭きして、着衣を整えられ、ガリアードにお茶をもらったところだった。  当然ってなんだろうか。アニメの中では、お尻拭き拭きなんてしたこともなく、リリアンは疲れ果てて寝落ちして、翌日お腹を壊すなんてよくあった。それに、こうやって茶を出されたこともなかった。ここまで変わるって、始まり方って大切……。 「僕の身の潔白の証明を、ガリアード様が(おこな)ってくださって、とても嬉しかったです」  そして、赤く頬を染める。実際はリリアンほど純朴ではない、俺っちだから染まらないだろうが、演技くらいできるので、恥ずかしげにでも嬉しそうに伝えると、ガリアードが固まった。 「り、リリアン、お前を一生大事にする」 「……ガリアード様」  リリアンらしく、可愛くガリアードを見つめた。  ガリアードが近づいてきてキスをする。目を閉じてガリアードのなすがままに従うだけ、口を開けろと舌でノックしてくるから、ふぁっと軽く侵入を許すと、すぐに大きな舌が口内を自由自在に動き回る。  キス、気持ちいい。こんな大きな男にされているのに、なんの拒絶反応もない。むしろリリアンの体は喜んでいるくらいだ。  元のリリアンは、政略結婚相手であるガリアードのことを怖がっていた。そして実際に会うと本当に怖かったみたい。それもそのはず、アニメのガリアードはいつも怒っているし、いつも無理やりリリアンを抱いていたから。  だが、今回のガリアードは最初から優しい。リリアンは政略結婚なりに、公爵家次男として心を決めてここに来たはずだ。もし、あのアニメでも初めからガリアードが今みたいに優しかったら、リリアンなら受け入れてむしろ愛を返しただろう。  その証拠にこの体は愛情を与えてもらって、一つの拒絶もない。むしろ、もっとキスを続けたい。  これはリリアンの体が、心がそう言っているのか、はたまた俺という人間がただ快楽に弱くてそう思っているのかは謎だが、これなら生き残れそうだと強く思えた。 「リリアン、そんな蕩けた顔したら、やめられないぞ。君が愛おしい」 「僕も…です。リリアンの初めての口づけ、ガリアード様で嬉しいです。こんな優しい旦那様に嫁げて、幸せです」 「リリアン!」  ガリアードはその後、しつこくリリアンの口内を堪能した。これ以上しなかったのは褒めてやる。 「あっ、ところで先ほどの潤滑剤? せっかく僕のために王宮のお医者様がお持ちくださったのに、使うことができなくて申し訳ないです。一度開封してしまったので先生にお返しするのは申し訳ないですし、未使用ですから、せっかくなのでこの邸宅にお勤めの方でご結婚をされている方に差し上げたらいかがでしょうか? 王家ご用達の品ならきっと素晴らしいと思うので」 「ああ、そうだな。リリアンは優しい子だ。最近結婚したのが騎士に一人いたな。その妻はリリアンと同じ華奢な男の子で働き者だから、その子をリリアン付きにしよう」 「僕付きの人をご用意くださるのですか? お心遣いありがとうございます」 「私の妻だ、当たり前だろう。君にはなんの苦労もさせない」  俺はほほ笑んだ。内心は、ちょっと違う……。  大きな変化だった。アニメでは、リリアンに付ける侍従などいなかった。それほどに屋敷の人間にも冷遇を見せつけたのだった、ただの性処理だけの嫁だというように。  俺はミスらずに、進めることができたらしい。早くもガリアードはリリアンに惹かれている。なんなら、すでにこの俺様に恋をしているようだった。 「リリアン、愛してる」 「……え、あっ」  まさかの、恋ではなく愛でした。  もっと重い方。いきなりここまで!? 俺すごくね? 性処理の嫁ではなく、愛している嫁にジョブチェンジいたしましたぁ! 前世で転職は叶わなかったけれど、リリアンの転職は大成功!? 「リリアンは戸惑うのわかるが、私は君を一度王都で見かけたことがあるんだ。とても可憐でその時、目を奪われた。そんな君がまさか私のような武骨な男に嫁いでくれるとも思っていなかった。それに王命だから逆らえず嫌々来るのだと思っていた。君が第一王子と繋がっているという噂もあったんだ。だけど君は最初から私を受け入れてくれて、まっすぐとその美しいで私を頼ってくれた。恋に落ちるのは一瞬だったよ」 「……(マジですか?)」  心の中では、自分の瞬時に選んできた行動に安心した。今のところ間違いは起こしていない。告白をするガリアードをじっと見ながら、心は冷静に状況判断を素早くした。これ社畜の基本、相手の顔色や言動から判断。空気読める人種は嫌われにくい。 「そんな戸惑った顔をする君もとても可愛い。ゆっくりでいいから、私の愛を受け取ってくれないか? 一生大事にする」  やばい、こんな重い展開!?  とりあえず殺されないために、まずはガリアードと相思相愛になるのが計画だ。ここはラッキーと思い、リリアンから聞いたら嬉しい言葉をかけなくては。そして身の潔白も。 「……嬉しいです。まさか、そんな言葉を言ってもらえるとは思っていなかったので、言葉に詰まってしまって申し訳ありません。結婚前に一度、王宮に呼ばれた時に第一王子とはお会いしました。それで僕との繋がりを疑われたのでしょうか? その一度だけなのでどうして噂になったのかわかりませんが、ワインバーグ家は中立の立場です。息子の僕が父を(おとしい)れるような行動は取りませんので信じてくださいませんか?」 「そうだな、なぜそんな噂になるのか、むしろ第一王子の悪意を感じるな」  おお、リリアンの言葉を聞いた! アニメでは全く聞く耳持たなかったガリアードも、結婚前はまだ穏やかだった。このタイミングで会話ができて良かった! 「誤解が解けて良かったです! 僕も噂で辺境伯様のこと聞いていたのですが、実物はこんなにも素敵で、僕こそガリアード様に恋をしてしまいました」 「そ、そうなのか?」  初恋ですか? 戸惑いながらも良い笑顔をするのはやめてほしい。童貞か!? 無邪気な顔は、可愛い人がすれば可愛いけど、クマのような大男は凶悪だ。仕方ないから、リリアンの控えめな笑顔でガリアードを喜ばせてあげよう。 「僕、国の英雄に嫁げるなんて夢のようでした。お会いしたらとても素敵な方で、僕の方こそガリアード様が好きです。僕たち初めて会ったのに、政略結婚なのに、相思相愛なんて幸せですね」 「リリアン!」  きつく抱きしめられた。マジできついっス。痛いし苦しい、リリアン華奢男子だから、マジで力加減! 「く、くるしいっ」 「あっ、すまない。つい嬉しくて」 「僕も……でも恥ずかしながら脆弱な体なので、もう少し優しく抱きしめてくれたら嬉しいです。もう一度、抱きしめていただけますか?」 「ああ、華奢なリリアン……。可愛い。これからは気をつけよう」  今度はそっと包むように抱きしめられた。そしてリリアンはガリアードの逞しい背中に手をまわし、自分からも密着した。 「ガリアード様を、お慕いしております」  これでハッピーエンドよくね?   リリアンとしての第一関門を突破しただけで、どちらにしても物語の本筋ではこれから第一王子を倒すんでしょ? 俺たちの出会いはアニメ本編へのプロローグに過ぎない一話にも満たない内容。リリアンが死ぬことで物語がスタートするんだから……。  てことはだよ!? リリアンの死亡フラグはまだあるってことだよね? 俺はもうそんな世界が怖いよぅ。まだ24時間戦える企業戦士をしていた方が性に合う。 「リリアン……」 「ん、んん」  戦う日本の戦士、ジャパニーズビジネスマンの頃の俺を思い出していたら、ガリアードからキスをされていた。  ああ、でも、いいかな? せっかくならガリアードとの初夜を楽しみたい。このままいくなら鬼畜な抱き方はしないだろう。日本では男とヤルなんて想像もつかなかったし、凡人だった自分が抱かれるのも、アンアン言うのもなんか違う。でもリリアンがアンアン言うなら、それはありじゃね?  よし! とりあえずガリアードの側は今のところ安全だ。リリアンとガリアードの仲が悪くならなかった場合、第一王子はどうストーリーを進めていくのだろうか? それとも物語の強制力が働き、不仲になる? まだまだ気は抜けないが、明日は初の肉棒を堪能してやるぞ! 「ガリアード様、僕、明日ガリアード様と結ばれるの、恥ずかしいけど楽しみです」 「うっ、明日まで、そうだな。明日まで待たねば!」 「好きです」 「リリアン!」  また濃厚なキスが始まった。いったいこのキスはいつ終わるのでしょうか?   一つ確かなことは、このままいけば明日の初夜に凌辱はされない。むしろ溺愛ルートに入った可能性さえも出てきてしまった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

870人が本棚に入れています
本棚に追加