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明珍火箸の音色が聞こえる
<第1章のあらすじ>
山形県米沢市で暮らす10歳の山田武(たけし)は、同級生の家で殺人事件に巻き込まれた。事件の帰り道に白い猫(ムハンマド)と出会い、武は猫と話ができることを知る。
その後、同級生の家で起こった殺人事件が原因となり、北部勢力:米沢派と南部勢力:シン米沢派の抗争が始まる。シン米沢派が米沢狩り(米沢派のスパイあぶり出し)を開始したことにより米沢派とシン米沢派の抗争激化。米沢市を二分する米沢戦争へと発展した。
武はシン米沢派の米沢南警察署に殺人事件の情報を伝えたものの、武自身が米沢派に狙われることになる。シン米沢派に保護された武は、警察署の地下にシン米沢牛の関連施設があることを知る。
武は米沢戦争の原因を、黒毛和牛:米沢牛を独占する米沢派に対抗してシン米沢派がシン米沢牛を作ったことだと思っていた。でも、武は地下施設で米沢戦争の原因はクローン技術であることを知る。また、地下施設で武は本当の両親に再開し、自らの出生の秘密を知る。
米沢戦争は自衛隊の介入で終結したものの、クローン研究者の父を脅す材料として武は米沢派の残党から狙われることになった。武を米沢派から守るため、母:信子は武と猫を連れて実家のある兵庫県姫路市に避難した。
第2章は武と猫と信子が姫路に到着したところから始まる。
(1)明珍火箸の音色が聞こえる
武は母の信子、猫とともに陸上自衛隊の姫路駐屯地に到着した。神町駐屯地から輸送機で送ってもらったので、約1時間のフライトだった。当日の天気は快晴だったから、輸送機は大きく揺れることなくフライトを終えた。
輸送機を降りた武はハイテンションで猫に言った。
「輸送機って、凄いなー。あんな不細工な形なのに飛ぶんだな。」
「まあな。スーパーグッピーって貨物機はもっと不細工だぞ。頭の部分が取れるらしい。頭取れるんだぞ?」と猫は自慢げに言った。
「スーパーグッピーって変な飛行機があるんだ。お前、物知りだな。」
「まあな。」
「飛行機に詳しいお前は、飛行機に何回乗ったことあるんだ?」
「飛行機は多くない。3回目だ。」
「え?3回だけ?200年も生きてるのに、3回しかないの?」
※この物語では猫の寿命は500年に設定しています。この猫の年齢は200歳です。
「うるせーな。つい最近まで飛行機なんか無かったんだよ。つい最近まで移動と言えば、船だ、船。」
「へー、船旅かー。楽しそうだな。」
「全然楽しくない!船酔いがえぐいぞ。」
「そうなの?」
「お前、勝海舟を知ってるか?」と猫は武に聞いた。
「知ってるよ。坂本龍馬の師匠でしょ。」
「そう、その勝海舟。遣米使節としてアメリカに船で向かったんだけどな、船酔いが酷くて部屋から一歩も出てこなかったらしいぞ。当時は日本~アメリカは船で片道1カ月以上掛った。船酔いが1カ月以上も続くって悲惨だろ。」
「悲惨だなー。みんな船酔いになるのか?」
「クルー以外はみんな船酔いになるなー。徐々に船酔いに慣れていくんだけど、それまでゲロまみれだ。」
「汚ねー。」
武と猫が騒いでいると、猫語が分からない信子が話しかけてきた。
「何の話してたの?」
「ああ、ムハンマドが船酔いでゲロまみれになった話だよ。」と武は答えた。
「汚い話ねー。」
信子が言った瞬間、「チーン」という風鈴のような音が聞こえた。
ただ、武が聞いたことがある風鈴とは音色が違う。
「母さん、この音なに?」と武は信子に聞いた。
「あー、この音?明珍火箸(みょうちんひばし)って言うの。懐かしいなー。」
※明珍火箸とは、播磨国姫路藩(現在の兵庫県姫路市)において、19世紀頃、姫路藩主である酒井家などに仕えていた明珍家(甲冑師の一族として名高い)がその技術を活かして作り始めた火箸。兵庫県指定伝統工芸品に指定されている。
出所:Wikipedia
「明珍火箸?」
「食べるときに使うお箸は知ってるでしょ?」
「当たり前でしょ。日本人だもん。」
「明珍火箸は、金属製のお箸を重ねたもので、風が吹いたときに金属の箸が当たって音が鳴るの。」
「へー。」
「音色が綺麗だから人気あるわよ。ただ、風鈴と比べると値段がそれなりね。」
「高いの?」
「高いわよー。母さんが子供の時はもう少し安かったけどね。」
武たちは明珍火箸を聞きながら、姫路駐屯地の事務所へ向かった。
【ご参考】
明珍火箸の風鈴は1万円くらいから販売しています。興味のある人はこちらのサイトをご覧下さい。
https://myochinhonpo.jp/
なお、明珍火箸の時計メーカー「セイコー」とのコラボ商品<クレドール>ノード スプリングドライブ ミニッツリピーターは2011年に3,465万円で発売されました。現在ミニッツリピーターGBLS998は4,510万円で販売されています。
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