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幽霊を辞めよう!
武はお菊さんが幽霊を辞める方法を教える代わりに、武を守るようにお菊さんにボディーガードを依頼した。
お菊さんは武からの提案を検討しているものの、即答できない。
まずは『幽霊を辞める方法』を聞いてからだと考えた。
「ボディーガードの件は考えてみる。それで、武くんが考えた『幽霊を辞める方法』は?」お菊さんは武に聞いた。
「それね。僕は辻褄が合えばいいだけだと思う。皿屋敷伝説によれば、お菊さんは皿が10枚あれば成仏する。だから、皿を10枚用意すればいい」
「ああ、偽物を混ぜるやつね。大昔に青山家の人間が1枚偽物を混ぜ込んだ時があるけど、明らかに他の9枚とは違ったから『これじゃないー』って言ったことあるわ」とお菊は言った。
「知ってるよ。それは偽物だと誰が見ても分かったからだよ。よほど雑に作った偽物だったんでしょ。ひょっとしたら、青山家の人はお菊さんに成仏してほしくなかったのかもしれない」
「確かに、当時の青山家の収入は『お菊さん対策費』だったからね」
「今は科学技術が当時より発達しているから、9枚の皿と見た目が同じ皿を作ることは簡単だ。さらに言うと、9枚の皿の構成成分を分析して、構成成分が同じ皿を作ることも可能だよ」
「じゃあ、見た目が同じで構成成分が同じ皿を1枚作って、9枚の本物に混ぜればいいのかな?」とお菊さんは武に聞いた。
「理論的にはそうなんだけど、その方法は効率が悪い。だって、本物の9枚の皿と偽物1枚を比較するでしょ。青山のじいさんが、『皿の質感が違う』とか『柄が微妙に違う』とか言いかねない」
「それはそうね」
「だから、偽物を10枚作ってすり替えたらいいんだよ」
「本物9枚と偽物10枚をすり替えるの?」
「そうだよ。そうすれば、青山のじいさんは偽物と偽物を比較して、同じものだと判断するはずだ」
「へー。それで、最後の1枚が出てきた理由は?」
「それなんだけど、僕考えてみたんだ」
「何を?」
「皿屋敷伝説って日本中にあるよね。播州皿屋敷だと町坪弾四朗(ちょうのつぼ だんしろう)が家宝の皿の1枚を壊したとする説、隠したとする説がある。『皿を壊した』と『皿を隠した』のどっちが信憑性あると思う?」
「『皿を隠した』かな・・・」
「僕も『皿を隠した』だと思う。弾四朗は青山鉄山の家来だ。鉄山の家宝の皿を壊すとは思えない。だって、お菊さんの責任にできなかったら、弾四朗が死罪になる可能性もあったわけだから」と武は言った。
「まあ、失敗して死罪になるリスクは避けたいよね。作戦が失敗したら『お皿、ありましたー!』って出してくるわけね」
「だから、最後の1枚は弾四朗の家から見つかったことにすればいいんだ」
「弾四朗が隠していた皿が出てきた?」
「そうだね。子孫がたまたまその皿を見つけて、返しに来たことにすればいい」
「それで、偽物はどうやって作るの?」
「まず、皿のコピーを作るために、青山家で保管している皿の1枚を少しの間借りてきてほしいんだ。お菊さんは透明になれるから、お願いできるとありがたい」
「まあ、いいけど。どれくらいの時間?」
「構成成分を分析する間だから数時間でいい。その皿を使ってコピーを10枚作る」
「分かったわ。ところで、一つ気になることがあるの」
「なに?」と武はお菊さんに聞いた。
「コピー皿が作成された年代が400年前じゃないことがバレないかな?つまり、科学者が皿の年代測定をして400年前の皿でないことが分かったらどうするの?」
「ああ、それね。お菊さんは鋭いね。僕の理解だと、年代測定は放射性炭素年代測定法か熱ルミネッセンス法を利用するらしい。だけど、この2つの方法はどちらも皿の一部を破壊して行うから、年代測定をするのに躊躇うんじゃないかな?だって、お菊の皿は歴史的な価値があるものでしょ?」
※放射性炭素年代測定は炭素(C-14)の半減期(約5,730年)を利用して有機物の年代測定する手法です。この方法で年代測定を行う場合、皿に付いているコゲなどを理由して計測するようです。
※熱ルミネッセンス法は、物質が加熱された時に放射される可視光の量(放射線の被曝量(ひばくりょう))を測定することで年代測定する手法です。
「そうね。それに400年以上保管してきた青山家が『10枚の皿は本物だ!』と言えば、疑う人は少ないかもしれないね」
「だから、古そうに見えるコピー皿を10枚作れば十分だと思うんだ。もし、科学的に検証されることを懸念しているんだったら、皿に放射線を放射して測定値が異常値になるように細工すればいいと思う。そうすれば、『幽霊のお菊さんが皿を触った影響で、放射線被曝量に異常値が出た!』と超常現象を信じてくれるんじゃないかな」
「分かったわ。その方法でいきましょ」
「じゃあ、僕は構成成分分析ができる機械を確保しないといけない。この辺りだと姫路工業大学(現在の兵庫県立大学)にありそうだから、母さんから依頼してもらうと思ってる。一度、僕は母さんの実家に戻るけど、お菊さんも一緒に来ない?」
お菊さんは少し考えてから武に返答した。
「夜まで時間はあるからいいわよ」
こうして、武と猫とお菊さんは実家に向かった。
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