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お菊の皿のデリバリー方法を考えろ!
村田に『お菊の皿』の分析と製造を依頼して武と信子は帰宅した。
翌日の朝、武、信子、お菊さんの3人は姫路工業大学の村田を訪問した。
お菊さんが一緒なのは、完成した皿の触り心地を確認してもらうためだ。
信子は昨日の研究室のドアを開けながら言い放つ。
「できたー?」
部屋の中にいた村田は信子の声にびっくりしたものの、信子に向かって言った。
「お嬢様、完成しております」
「そう。見せてもらうわ」
信子は皿と製品の成分分析結果を手に取って確認し始めた。
「へー、構成成分の数値は一致しているわね。お菊さん、ちょっと触ってみてくれる?」
信子はそう言うと製造された10枚の皿をお菊さんに渡した。
皿を受取ったお菊さんは丹念に10枚の皿を確認していく。
「見た目はそっくりね。古い年代に製造された皿のように見える。質感も『お菊の皿』とほぼ同じ。合格です!」とお菊さんは言った。
どうやら『お菊の皿』は完璧にコピーされたようだ。
「ブタのくせに、よくやったわね。褒めてあげる」
信子はそう言うと、村田の頭を撫でた。
村田はとても嬉しそうだ。
武は大人の世界を怪訝に思いながらも、『お菊の皿』が完成したことに満足した。
***
10枚の皿を受取って実家に帰った武とお菊さんは、成仏のための手順を打合せすることにした。
まず、お菊さんは武に皿を入れ替えるタイミングを確認することにした。
「本物の『お菊の皿』と作った10枚の皿を入れ替えるタイミングはいつにするの?」
武はしばらく考えてからお菊さんに言った。
「まず、“青山家に保管されている本物の皿9枚を入れ替えるタイミング”と“残り1枚が町坪弾四朗(ちょうのつぼ だんしろう)の子孫から返却されるタイミング”を別々に考える必要があると思うんだ」
「どういうこと?」
「まず、『町坪弾四朗の子孫がどこに皿を返しにいくか?』を整理した方がいいと思う」
「青山家に返すんじゃないの?」
「僕も初めはそう考えていた。だけど、もし青山家にお菊さんに成仏して欲しくない人がいたらどうする?」
「私が成仏すると困る人?」
「そうだね。青山家の当主は80代と高齢だし、後継ぎもいないから、お菊さんに成仏してほしいと思ってる。でも、青山家の他の人は『当主が死ぬギリギリまで成仏してほしくない』と考えたらどうだろう?」
「『お菊さん対応費』のこと?」
「そう。僕は『お菊さん対応費』が正確に幾らなのか知らない。でも、猫のアオヤマの話ではそのお金で青山家は贅沢しているらしい。だから、相当な金額だと思うんだ」
「金に目が眩んだ青山家の誰かが邪魔するかもしれない・・・」
「だから、町坪弾四朗の子孫が青山家に皿を返すのはやめた方がいいと思う。金に目が眩んだ青山家の誰かが、皿を隠すか壊すかもしれないから」
「じゃあ、誰に返したらいいの?」お菊さんは武に聞いた。
「それなんだけど、僕は姫路市役所に返すのがベストだと思うんだ」
「姫路市役所?」
「姫路市役所の職員は『お菊の皿』を隠したり壊したりしない。先に姫路市役所の職員が皿を確認したら、青山家の誰かが隠したり壊したりできない。」
「そういうことね」
「それと、姫路市役所がお菊さんの成仏を確認しないと青山家の儀式は終わらないんだよね?」
「そうだね」
「姫路市役所に皿を持っていったら、担当者が皿屋敷の儀式の時に皿を持っていってくれる。そうすると、姫路市役所の担当者の目の前でお菊さんが成仏するから、青山家が成仏した証拠を提出する必要もない」
「へー、姫路市役所の担当者の目の前で成仏か・・・。いいかもね」
「だから、町坪弾四朗の子孫は姫路市役所に皿を返すことにしよう。今日の帰り道に姫路市役所に寄ったら『お菊さん対策課』って部署があったから、そこに返せばいいと思う」
「分かった。それで、青山家の保管している9枚の皿はどうするの?」
「皿屋敷の儀式の最中にすり替えるのはどう?」
「それだと、姫路市役所の担当者が、皿屋敷の儀式の前に青山家に持っていったらバレないかな?」
「皿を受取った青山家の人が、他の9枚と比較するってこと?」
「そうよ。青山家の当主が偽物だって気付くかもしれない」
「それだったら、姫路市役所の担当者に『皿屋敷の儀式の時に直接皿を持って行ってほしい』と言えばいいよ。青山家と仲が悪いとか理由を付ければいい」
「そうね。その方法で進めましょうか」
お菊さんは納得したようだ。
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